日々

第82話 消えたもの

 色々試してみたが私の記憶が戻ることはなかった。

 何かしら記憶の断片に触れられるかと思ったがその兆候すら見えない。

 まるでページを切り取られた小説のように、ここへ来るまでの過程が跡形もなく抜け落ちている。


 進展が見られないので記憶喪失の件は一先ず保留とする。


 さて、次回の旅はジャングル地方を探索を行いながら抜けて、森林地方の図書館で情報収集とジャパリまんの補給を行い、そのままサバンナ地方を探索する。


 勝手に図書館でジャパリまんを補給する予定としているが、おそらく司書は快くジャパリまんを分けてくれるだろう。

 ただ、それだと悪いので何かしらの手土産を持っていくつもりではある。


 今日は1日の大半を記憶を取り戻すことに費やした為に肉体的にも精神的にも疲労困憊だ。

 そう言えば、この寮の部屋にもマンガがあったか。

 旅の準備や計画などに時間を費やしていたので、今まで部屋にあるものをじっくりと確認したことがなかった。


 私は本棚から本を取り出す。


 以前、表紙を見て動物の写真集だと思った本は市販の物ではなく手作りの写真集らしい。

 この部屋の飼育員が作成していたのかは不明ではあるが、その可能性は高いだろう。


 中身はフレンズ達の写真集。


 フレンズ化後とフレンズ化前の写真が並べられており、ある種の図鑑のようになっている。

 少し気になる記述があった。


 この写真の中には付箋にフレンズの名前等を書いているが、その中にフレンズ達をアニマルガールと言う呼称で書いているのを見付けた。

 その呼称は前の方のページに良く使われており、最後の方ではフレンズのみになっている。


 アニマルガールと言うのはフレンズ達が現れた初期に使われていた呼称なのかもしれない。

 ジャパリパークが運営している時ですら廃れてしまったその呼び名は、今では欠片もその痕跡を残していない。


 他に何かないか探してみると何かのマスコットキャラクターと思わしきキーホルダーが出てきた。

 ピンク色のボディに羽のような飾り、身体に巻かれたベルトには何かレンズのような物が付いている。

 キツネ?タヌキ?

 モチーフの動物がよく分からない。


 キーホルダーの裏にはラッキービーストⅢ型と書かれている。

 Ⅰ型やⅡ型も存在するのだろうか?


 ……良く見ると中々可愛い。


 これはこっそり拝借することにした。


 先程から私が本棚を漁っている横でオオウミガラスがマンガを読んでいる。

 オオウミガラスは文字が読めただろうか?と思い楽しいか聞いてみると、絵だけでも何と無く話が分かるから楽しいと返事が来た。


 確かにマンガならば絵があるから何と無く楽しいのかも知れないが、やはり文字を覚えた方が楽しいと思う。


 なので、オオウミガラスに今度文字を教えようか?と聞くと、少し考えた後に頷いた。


 どうやら文字を覚えるかどうかについては少し前からオオウミガラスも考えていたらしい。


 それなら文字を覚える事に前向きになっている間に出来る限り文字を教えておこう。


 途中で根をあげないと良いが……

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