日記外その19 スモモとスカイフィッシュ

 謎のフレンズは港から海を見詰めていた。

 まるで海に溶けてしまった記憶の断片を探すかのように、日の光を受けてキラキラ輝く波間を覗き込む。


「……記憶喪失か」


 自身が記憶喪失であることに気が付いたのは極最近の事だ。

 謎のフレンズは日記帳を読み返して考察する。


「……少なくとも流れ着いた時点では失われて居なかった筈だ。投げ出された記憶はないと書いたが、漂流する嵌めになった理由くらいは考察してもおかしくはない。何故、私はそれをしなかった?いや、したくなかったのか?」


 謎のフレンズは思考を口に出して自分自身へ問い掛けるように独り言を言う。


「……私は船に乗って……私は……私達は……探していた……アレを……場所は……ダメか」


 色々意味深な事を呟いて刺激を与えて記憶を思い出そうとしているようだが進展はない。


 しばらく、腕を組んで考え込む。

 ふと、謎のフレンズの視界に今は燃料切れで動かない船が目に入り、何かを閃いたのか指をパチンと鳴らす。


「……状況再現!」


 船から海へ落ちたと思われる状況を再現して記憶を呼び戻す作戦に切り替えた謎のフレンズは、早速とばかりに船の甲板へ上がる。


 次はどうやって落ちたか。


 謎のフレンズは一先ず手摺に腰を掛けてそのまま落ちた状況を再現することにした。

 手摺に座ってみるが、特に記憶が蘇る気配はない。


 仕方無いと謎のフレンズはそのまま重心を後ろに預ける。

 ゆっくりと視界に青空広がっていき、謎のフレンズの身体が浮遊感に包まれる。


 と、その時であった。


 ガシッ!!と力強く謎のフレンズの右腕が捕まれて、海面に着く前に身体は空中で静止する。


「……クーちゃん?」

「───!」


 いつの間に現れたのか、スカイフィッシュのフレンズのクーちゃんが謎のフレンズが海中に落ちる前に腕を掴んだようだ。

 ちなみに謎のフレンズを含め、クーちゃんの知り合いは皆クーちゃんがスカイフィッシュであることを知らない。


「──!」


 クーちゃんは謎のフレンズを船の上に引っ張り上げると、謎のフレンズをぽかぽか叩き始める。

 どうやら結構怒っているらしい。


「……すまん。別に命を投げ出すとかそう言うのでは無いんだ」

「───!」


 じゃあ何なんだ!とでも言いたげにクーちゃんは謎のフレンズに向けてビシッと人差し指を向ける。


「……無くしたものを取り戻そうと思ったんだ」

「──?」


 何か海に落としたの?と言いたげにクーちゃんは海面に視線を向けて首を傾げる。


「……いや、落とし物って訳でも無いんだが……似たようなものか」


 謎のフレンズが船の甲板に腰を降ろすと、クーちゃんもその隣に腰を降ろした。


「……私はどうやら記憶喪失らしい」

「──?」

「……きっと、その記憶は忘れたままの方が良い。取り戻したら必ず後悔する。……そこまで分かっていながらもどうしても記憶を取り戻したい」

「───」

「……人と言うのは難儀な生き物だ」


 謎のフレンズは青空を見上げて溜め息を吐く。

 これ以上奇行を繰り返せばオオウミガラスも心配するので、今回で一先ず記憶を取り戻すのは諦める事にしたようだ。


「───」

「……これは?くれるのか」

「──!」


 そんな謎のフレンズにクーちゃんは元気出せよと今朝取ってきたばかりと思われる果物を差し出した。


「ありがとう……これはスモモか」


 口にしたスモモは少しだけ酸っぱい味がした。

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