第77話 湯けむり
久々に温泉を堪能した。
やはり、温泉は良いものだ。
さて、ツンドラ地方に何故か存在した温泉へと真っ先に入った私は先客が居たことに気が付いた。
目を瞑って温泉を堪能してたであろう人物はこちらをちらりと薄目を開けて一瞬見た後、驚いてもう一度私の顔を見た。
何でこんなところに?
それは私のセリフだ。
温泉に先に入っていた先客はなんと港へ時々やってくるイッカクだった。
オオウミガラスが服の脱ぎ方を教えていたのかしっかりと服は脱いでいる。
いつの間に教えたのだろうか?
何故、イッカクがツンドラ地方に居たのかは話を聞いてみれば何てことはなく、イッカクの縄張りがツンドラ地方の冷たい海と言うだけだった。
ツンドラ地方の海岸に住んでるフレンズとは近所に住んでるだけあって交流が深い。
服に関してはやはりオオウミガラスに教わったらしく、服を取るだけで熱いだけの湯が気持ち良くなるのか半信半疑だったが、試しにやってみたらハマってしまったようだ。
温泉は気持ち良いし、疲れも取れるし、傷の治りも早くなるしで至れり尽くせりらしい。
傷の治りも早くなる?
イッカクがほらここと腕を見せてくるが、ツルツルの傷一つ無い綺麗な肌しか見えない。
入る前は切り傷があったらしいが、今は跡形もなく治癒している。
……実は温泉に見えて何か特殊な傷薬か何かなのだろうか?
周りで怪我をしたフレンズが居ないので定かではないが、そもそもフレンズ達の自然治癒能力が優れているだけと言う可能性もある。
なるべく怪我はしてほしくないが、追々わかってくるだろう。
ところで、イッカクは何故怪我をしたのだろうか?
その問いにイッカクはセルリアンに襲われたからだと答えた。
どうやら海の中には水中の環境に適応したセルリアンは存在するらしい。
数は陸より圧倒的に少ないがそれでも危ないことには変わり無いので、ハンターの代わりにイッカクがセルリアンを退治しているそうだ。
大した見返りも無いのに良く頑張れるものだ。
頑張ってるイッカクの為に、今度港の寮に来た際は料理を振る舞おう。
そう言うとイッカクは次は色んな魚を取ってくる、あと今は居ないお母さん達も連れて来ても良い?とテンションが上げながら私に迫ってくる。
快く承諾するとイッカク抱き着いてきた。
きっと次は海鮮パーティーになるだろう。
と、その時オオウミガラスとセグロジャッカルから教わって、脱衣を終えたペンギン達が温泉の中に入ってくる。
イッカクはさっと私から離れるが既に時は遅く、目敏く私に抱き着いているイッカクの姿を見たアデリーペンギンが口角をあげながらイッカクの側へとやってきた。
どうやらこのアデリーペンギンは他のフレンズをからかうのが大好きらしい。
イッカクさんが誰かに甘えるなんて珍しいですねぇ、なんてニヤニヤしながらイッカクを突っついてる。
キングペンギンは何処か別の地方でのフレンズとの出会いを語り始めたり、オオウミガラスは温泉の中をゆっくり泳ぎ始めたり、セグロジャッカルは……大人しく浸かっている。
中々賑やかな状況になってきた。
私としては一人でのんびり長風呂をしたいが、それが出来るようになるのに約一時間も掛かった。
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