凍てつく海辺

第72話 雪原のキャンプ

 博物館を出て、私達は再び白い世界へと足を踏み入れる。

 博物館の成果はサンドスターについて、また一つ理解が深まったことだろうか。

 セグロジャッカルには私の予備の防寒具を渡したので、今度は寒さに震えることはない。


 セグロジャッカルのツンドラ地方の探索は私の目的とも合致しているため、しばらくは共に行動をする事となった。


 こうして3人で旅をするのは迷宮脱出以来だ。

 まだ、そこまで日は経っていないが、随分と懐かしく感じる。


 オオウミガラスの案内で針葉樹の森を歩き続けていると段々と木々が疎らとなり、私達の目の前には一面完全な白銀に包まれた雪原が現れた。


 ただでさえ低い気温が下がったように感じる。


 おそらく、風を遮っていた木々が無くなったため、体感温度が下がった事が原因だろう。


 この雪原を抜けるとオオウミガラスが以前暮らしていたツンドラ地方の海岸へ辿り着く。

 ちなみにうろ覚えガイドによると、雪が溶けると一時的に小川の流れる平原に変わるらしい。


 さて、雪原に辿り着いたのは良いが、博物館の探索に時間を費やした為、本日中に雪原を越えることは難しい。

 夜中でも無理をして歩みを進めれば辿り着くが、セルリアン等の危険を考えれば逃げるだけの体力は温存したいので、今夜は雪原の中央付近でキャンプをする事になる。


 幸い、セルリアンはこちらを視認しなければ襲っては来ないので、テントの中に引きこもっていれば安全だ。


 雪原の中央付近まで歩みを進めた私達は早速テントを組み立てる。


 オオウミガラスはテントを見て砂漠の時と違うねと言う。

 あちらは通気性や遮光性に特化したものだが、今回のは保温性に特化したテントである。

 2人用の大きさを選んだので、3人入ると狭くなるが寝れないことはなさそうだ。



 夕日の赤色と青い影と雪の白さが混ざった絶妙な風景を堪能しながら、私はコンパクトコンロの火を付ける。


 こんな場所ではまともな料理は作れないが、暖かいスープを振る舞う事ぐらいは可能だ。

 冷えきった身体に染み渡るような暖かいスープは格別だろう。


 ところで、何故セグロジャッカルとオオウミガラスは私から距離を取っているのだろうか?

 そろそろスープも良い感じに温まってきたので、取り分ける為に此方に来て欲しいのだが……



 どうやらコンパクトコンロの火が怖いらしい。


 今更ではあるがフレンズは元動物の習性や特徴を色濃く残している。

 そして、多くの動物が火を恐れる事を考えれば、オオウミガラスとセグロジャッカルの反応は至極当然の反応と言える。


 これからはフレンズ達の前で火を使うのは極力止めておこう。

 不必要に怖がらせる意味はない。


 火を消した事で怖いものが無くなった二人は早速とばかりにスープをもらいに来る。


 スープを飲みながら二人に料理には火が必要不可欠だと教えると、セグロジャッカルはあたしには料理は無理そうだと言う。


 フレンズの火に対する反応を知って、料理の事を知っていたと思われる司書とコイちゃんが、どうして自分達で料理をしないのかやっと理解が出来た。

 おそらく、料理に挑戦したは良いが、火を前にして諦めたのだろう。


 そして、スープを飲みながら雑談をしているとスープの匂いに引き寄せられたのか、ツンドラ地方の新手のフレンズが現れた。

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