第70話 博物館

 建物の中に入って私は電気系統が生きているかどうか確かめる。

 建物の内部の暗い部屋の隅に配置されていた制御盤を弄ると、明かりと暖房が起動した。

 どうやらこの建物の電気は生きているようだ。


 だが、冷えきった部屋の中が暖まるのはもう少し時間が掛かりそうだ。


 防寒具の前を外して、セグロジャッカを後ろから予備の防寒具と一緒に包み込むように抱き締めて暖める。


 冷たい……


 ……?


 普段ならオオウミガラスが私も一緒に暖めるとか言いそうなものだが、今回は何故か妙に大人しい。


 オオウミガラスがじっと視線を向けてる先を見ると、何かが乗るであろう台座が存在していた。


 この建物は何なのか?

 私のパンフレットには載っていなかった建物なので詳細は不明であるが、展示されている何かの動物の骨格や剥製から、おそらくは博物館なのではないかと推測する。

 内装がまだ完了していなかったり、台座が空のものもあるので、まだ建設途中だったのだろう。


 しばらく、セグロジャッカルを暖めていると、大人しくしていたオオウミガラスが突然話始めた。


 わたし、ここでフレンズになったの。


 何の前触れもなくオオウミガラスがそんな事を言い出したので、私はふーんと生返事を返す。

 そして、生返事の後に疑問が沸いてきた。


 ここでフレンズになった?


 ここにあるのは動物の剥製であり、生きている動物は存在しない場所である。

 偶然、博物館に迷い込んでフレンズ化したのだろうか?


 そんな疑問に答えるかのようにオオウミガラスは言葉を続ける。


 フレンズになってもう一度海を泳げるようになってとても嬉しかった事や、たくさんの楽しい思い出が出来た事など……


 そして、私は気が付いてしまった。


 オオウミガラスが見ていた台座のところに置いてあるプレートに何が書かれていたのかを……



 鳥網チドリ目ウミガラス科オオウミガラス属オオウミガラス


 レッドリスト

 EX:絶滅


 次の瞬間に私の頭の中は一瞬真っ白になってしまった。


 待って!待ってほしい!


 そんな言葉だけが頭の中で反芻し、思考が全く前へ進まなかったのは覚えている。

 私はオオウミガラスが既に絶滅している存在だとは思いたくなかったのだ。


 しかし、この情報が事実であるならばオオウミガラスは既に絶滅している筈の動物なのだが、現に目の前にフレンズとして存在している。


 先程の話と合わせて考えるなら、フレンズになる前は……


 おそらく、オオウミガラスは元々剥製だったのだろう。

 サンドスターの力により、物言わぬ死体からフレンズとして蘇ったのだ。


 動物の体毛や遺物からでもフレンズになるのは、フレンズ達の間では周知の事実であり、何故私が取り乱しているのか分からないようだった。


 オオウミガラスとしては、本当に世間話のつもりだったのだろう。


 だが、私はこの現象が導く“可能性”の重大性に気が付いてしまった。


 おそらく、私の考えが正しいとするならば、サンドスターの研究のその先は……




 現在、ジャパリパークの情報は外の世界には存在しない。


 存在してはならなかったのかもしれない。

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