第66話 竹林の奥にて

 トンネルを抜けると目の前に広がっていたのは竹林だった。


 立地的には山に囲まれた盆地であり、おそらくはクーちゃんの住んでる場所と繋がっている筈だ。

 山と山に挟まれたこの場所は他と比較して雰囲気がかなり異なっているように感じる。

 やはり、例えるとするなら異世界と言う言葉が思い浮かぶ。


 オオウミガラスは竹を見たことが無かったのか、竹を触ってツルツルしてると感想を漏らした。

 ついでに竹と言えば春先に取れるタケノコと言う食材があり、煮物や炊き込みご飯が中々美味である。

 また、成長した竹は中が空洞な事もあり、簡単な加工で水筒やコップにすることが出来る。


 中々有用な資材だ。


 そんな事を考えながら歩いてると誰かに声を掛けられたような気がして立ち止まって振り返った。

 突然、立ち止まった事に疑問を持ったオオウミガラスにどうしたのと聞かれる。

 オオウミガラスには誰かの声は聞こえなかったらしいので、私の気のせいだったのかもしれない。


 そう思って前方を向く際に視界の隅の竹林の奥に違和感のある色を見付けて二度見をした。


 緑一色の中に混じる朱色。


 気になって近付いてみると、それは鳥居と呼ばれる建造物だった。

 日本の様式に則っているとするならば、この鳥居の近くには神社がある筈だ。


 竹に侵食されてはいるが、辛うじて敷地の原型と思わしき竹垣と崩れた本殿を見付けることが出来た。


 祖母はキツネの神様を信仰していたようだが、果たしてこの神社は何を祀っているのだろうか?


 本殿跡地の様子を見る限りでは、倒壊してからかなりの時間が経過しているのが見て取れる。

 倒壊の原因は経年劣化ではなく、周囲に飛び散った残骸を見る限りはトラックが突っ込んだようにも見える。

 フレンズ達が積極的に破壊活動を行うとは考えられないので、犯人はやはりセルリアンなのだろう。


 いや、セルリアンも自分から物を壊すようなことはしないか。

 獲物を追っていない限りと頭に付くが……


 その時、オオウミガラスが突然誰か倒れてると言い出した。

 大丈夫か!?と、急いで瓦礫を退かすとそこにあったのはフレンズではなく石像だった。


 紛らわしい……


 オオウミガラスはあれ?あれ?と石像が出てきたことに混乱している様子。

 オオウミガラスは瓦礫の下に手が見えたと言っているが、何かの見間違いではないだろうか?


 そして、この石像はタヌキか。


 となるとこの神社に祀られていたのはタヌキの神様と言うことになる。


 タヌキの石像は本殿の崩壊の影響なのか首がもげており、非常に痛々しい姿となっている。

 オオウミガラスは石像の痛々しい姿を見かねてか、首を元の位置戻そうとするが、ごとりと地面に落下してしまう。


 セメントがあればくっ付けるのは容易いが、今は手元にセメントがない。

 確か、ホームセンターのようなコーナーにセメントらしき物があったような気がする。


 ここへ来るのにそれほど労力は必要としないので、ツンドラ地方の旅が終わったらもう一度ここへ来て修理をしよう。

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