第59話 蘇る歌
音の発生源は遊園地の奥にあるステージから発せられている物だった。
しかし、ステージ上にはフレンズの姿はなく、スピーカーから歌が流れているだけだった。
合間合間に一喜一憂する声が聞こえるので、カラオケ大会のような物を録音した音声が流れているようだった。
ステージ上の朽ちたスクリーンには何も映されていないが、もしかしたら映像付きのものかもしれない。
そして、そんなイベントをやっていたであろうステージの脇には何やら見知ったフレンズが伸びていた。
確認のために近寄って見ると、倒れていたのはアカギツネだった。
人に並々ならぬ興味を持っているアカギツネの事なので、何か機械を弄った拍子に起動させてしまったのだろう。
しかし……
コーヒーを吹き出して悪ふざけで気絶したフリをしたオオウミガラス達と違い、このアカギツネはどうにも本当に気絶しているように見える。
ここまで来ればスピーカーから流れる音量も煩いと言えるくらいにはなっているが、気絶するほど煩いとは思えない。
ここで何があったのだろうか?
とりあえず、ステージの操作盤を探そうと周囲を眺めると、嫌なものを発見してしまった。
セルリアンだ。
大きさ的には私の胸の高さくらいはあるだろうか?
以前に出会った大型達と比較すれば、なんて事はない大きさで、私も頑張ればどうにかなりそうな相手ではある。
だが、しかし……
それは1体だけならばと言う話で、こうして20体近く出現されると流石にお手上げだ。
どうやらセルリアンは時として集団で出現するパターンもあるらしい。
ステージの方へ近寄って来るので、音を聴いて集まってきた可能性もある。
もう少し早く気が付いていたのなら隠れる余裕もあったのだが、今回は既に私の姿を補足されていた。
気絶しているアカギツネを担いでの逃亡は著しく体力を減らすだろう。
休む為の期間の筈なのに、どうしてこんな厳しい状態になっているのだろうか?
その時の私はそんな事を考えていた。
しかし、本当の意味で厳しい状態になるのはこの直後の事だった。
不意にスピーカーからフレンズ達の焦り出す声が聞こえ始めた。
司会が必死に何か説得をしようとしているが、焦り過ぎてしどろもどろになっている。
大丈夫、たくさん練習してきたから。
そのセリフに私は今まで感じたこともない悪寒に襲われた。
弱り果てたナミチスイコウモリ、気絶したアカギツネ、説得を試みる司会、ざわめくフレンズ。
様々なピースが私の脳裏で一つに繋がる。
止めなくては!
そう思うが目の前に迫りつつあるセルリアンも無視できない。
スピーカーの音声を止めるのは後回しにしよう。
アカギツネを担いで私はセルリアンの包囲網から、脱出するべく逃走ルートを計算する。
ステージの正面付近が包囲網が薄いか?
あそこに掛けるしかない。
そう判断して駆け出したが、間に合わなかった。
スピーカーから『トキ』と名乗る声が聞こえ、大音量の歌が流れ始めた。
きっと、私は彼女の歌声を死ぬまで忘れる事が出来ないだろう。
そう思わせてしまうほどに、その歌声はあまりにも……あまりにも衝撃的だった。
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