第54話 砂漠の帰り道

 あ゛つ゛い゛ぃ


 全ての文字に濁点が付きそうな濁った声でオオウミガラスは道を歩く。


 本当はここで日が暮れるまでテントで休んでも良かったのだが、オオウミガラスが心許ないジャパリまん袋の中身を見て、真昼の強行を決意したのだ。

 一番暑さに弱いのに……


 元々、7日分の食料を持ってきていたが、フタコブラクダやヒメアルマジロに少し分けた結果、1日分だけになってしまったのだ。

 なので、今日中に辿り着かないと明日は食事抜きになってしまう。

 それを嫌っての強行軍なのだが、果たして空腹で歩くのと、灼熱の太陽の下を歩くのはどちらが辛かっただろうか?


 汗の掛けないオオウミガラスに頭から水を掛けながら、砂漠地方の旅のラストスパートを掛ける。


 そしてトンネルの中に入って、やっと砂漠の暑さから抜け出せた。


 そう言えば、何だかんだここまで付いて来たフタコブラクダはこれからどうするのだろうか?


 フタコブラクダは久し振りに砂漠地方の外へ来たので、しばらくはジャパリパークのあちこちを旅するそうだ。

 そして、あちこち旅をしながら砂漠地方へフレンズを呼び込もうと言う魂胆らしい。

 あのゲートが開いたことにより、砂漠地方の交通事情もそれなりに解決したので良い機会だろう。


 あと、ついでに砂漠地方を出てハンターをしている友達に会うのも一つの目的らしい。


 ここを出発するのはオオウミガラスが復活してからになった。

 フタコブラクダも遊園地方面へトンネルを抜けてから別れるそうなので、もう少しだけ一緒に行動することになる。


 オオウミガラスが復活して私達は山間のトンネルを抜ける。


 そう言えば、ここで誰かと約束をしていたような……誰だっただろうか?


 冗談だ。


 クーちゃんの縄張りに入ると、いつの間にか背後にクーちゃんが浮かんでいた。

 音もなく高速で飛べるクーちゃんの隠密能力は物凄く高い。

 背後のクーちゃんに気が付いたフタコブラクダは物凄く驚いていた。


 ついでにフタコブラクダとクーちゃんは初対面だったようで、クーちゃんが何のフレンズかは知らなかった。


 クーちゃんは中々にレアキャラのようだ。


 クーちゃんを拾ってトンネルを抜けたフタコブラクダはここでお別れとなった。


 また、何処かで会おう。



 港へ向けて移動している最中、アカギツネが作り上げた木彫りの猫群れを見掛けたが、肝心の制作者の姿は見当たらなかった。


 ついでにアカギツネにも料理をご馳走しようと思ったのだが、居ないのならば仕方がない。


 また、別の機会にしよう。


 こうして、私達の砂漠地方の旅は終わった。

 収穫らしい収穫は無かったが、旅の思い出だけは沢山出来た。


 熊(猫)の木彫り、虹色の結晶、サンドローズ、ヤシの実(ナツメヤシの実)。


 サンドローズなんて何処で拾ったのだろうか?

 テントの解体時に荷物の中に紛れたのかもしれない。


 特に印象深かったのは、砂漠の夜で見た星空だろうか。

 遮蔽物のない環境で見上げた夜空は普段の数倍広く見えた。

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