第37話 映像

 適当に選んだDVDには中央広場の映像を記録した物だった。


 初めて映像を見るオオウミガラス達は大興奮。

 司書は得意気にこれはDVDで過去の出来事を動く絵で保存できるものだと解説していた。

 どうやら、図書館にもDVDを再生できる機械があるようだ。

 図書館にあるDVDは動物の生態を解説した物らしいので、昔のジャパリパークの様子を記録した映像を見るのは司書も初めてらしい。


 中央広場にはジャパリパークにやって来た客やフレンズ達にキツネなのか何なのか分からないが風船を手にしたマスコットが徘徊している。


 なんか色んなヒトがいるねとオオウミガラスが言う。

 服装も違えば髪型や髪色も違う。

 フレンズ達に比べれば個性は薄いが、確かに色んな人がいる。


 人間観察はあまり得意ではないが、客層を良く見ると何故か飼育員や研究員と言った職種の人が客と一緒に歩いているのが目立つ。

 すると、フレンズに話し掛けていた男性に女性飼育員が腹パンを行った。

 その隣で様子を見ていた幼女が白い目で男性を見ており、話し掛けられたフレンズは苦笑いを浮かべている。


 オオウミガラスがなんでこのヒト殴られたの聞いてきた。


 ……人には色々事情があるんだ。


 答えになっていない微妙な返事を返すことしか出来なかった。

 とりあえず、この家族に離婚の危機が訪れていないことを祈ろう。


 家族で気が付いたのだが、客の様子を見るとファミリーはいるが、カップルが全く見当たらない。

 もしかしたらここに居るのはジャパリパークのスタッフの親族だけなのではないだろうか?

 本格的なオープンの前にプレオープンとしてスタッフの親族が招待されたのかもしれない。

 そう考えればスタッフと客がやたら仲が良いのも説明が着く。


 となると、本格的にジャパリパークがオープンした映像もあって然るべきなのだが、私が最初に手にしたDVDはここに残されている中でもかなり新しい方だった。


 嫌な予感がする。


 私は最新の記録を見るべくDVDを手に取り、映像を再生した。


 そこに映し出されたのは無人ではあるが、先程と同じ中央広場。


 ……同じ中央広場の筈だ。


 同じ中央広場の筈なのにまるで別の場所を見ているかと勘違いしてしまうくらいに、物凄く寂れた雰囲気を醸し出している。

 それこそ、現在の廃墟状態よりも遥かに寂れているように感じてしまう。


 この何とも言えない違和感を言葉で表現するのは難しいが、あえて言葉にするなら……

 まるで遊園地として絶対に失ってはならない大切な何かを失ってしまったかのようだ。


 そして、映像の最後には微生物をそのまま大きくしたような存在が通り掛かったところで止まってしまった。


 最後のアレは何なんだ?

 質感的にはセルリアンのようにも見えたが……

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