海からの来訪者

第28話 海からの侵入者

 目を覚ますと知らない天井が広がっていた。

 そう思ってしまうのは僅かながらに私の中に実家で過ごしているような感覚が生まれているからだろう。


 家具に囲まれた生活と言うのはやはり良い。


 窓を開け放して外の空気を取り入れる。

 海に近いのもあってか微かに潮の香りがする風が淀んだ部屋の空気を吹き流す。


 朝食は軽めに白米、味噌汁、焼き鮭。

 私は鮭を食べることは出来なかったが、今朝の食事も中々に好評だった。


 今日は昨日に引き続きショッピングエリアの探索を行う。

 港なので何かしら船の燃料に関する手掛かりは掴めるだろう。


 ……で、朝から当然のように付いて来ている私の鮭を食べた貴女は何者だ?

 オオウミガラスが何も言わなかったから特にツッコミを入れなかったが……


 彼女の名前はイッカク、海で暮らしているフレンズのようだ。

 動物の頃は沖で暮らしていたようだが、フレンズになってからは海岸にも良く来るようになったらしい。

 オオウミガラスとは知り合いらしい。


 珍しく私より早起きをしたオオウミガラスが外でうろうろしているイッカクを引き入れたのだそうだ。


 イッカクと言うと角を生やしたイルカみたいな動物だったと記憶しているが、アメリカバイソンのような角っぽいのは見受けられない。

 強いて言うなら左の髪の一部が一房だけ長いのが角っぽく見える。


 角は無いのかと聞いたら、イッカクの手にいつの間にか槍が握られていた。

 どうやら角等の特徴を持つフレンズはこうして武器として残るらしい。

 ちなみにイッカクの角は実は牙なのだそうだ。


 それにしてもその角は何処から取り出したのだろうか?


 イッカクの事はとりあえず保留にして港の探索を始める。

 漁港や商港とは違い周囲には大きな倉庫のような施設は見当たらない。

 ここの施設では船の本格的な整備は出来ない可能性がある。

 とは言っても予備の燃料の備蓄くらいはあっても良さそうなものだが……


 見付けられたのは各種工具と機械油、それと空のポリタンク。

 結局燃料は見付けることが出来なかった。


 だが諦めるにはまだ早いか。


 このジャパリパークにはかつて様々な乗り物が動いていた。

 その最たる物はバスだ。

 バスと船の燃料は同じ物を使用している筈である。

 ならば、バスかバスターミナルを探せば船の燃料に行き着く筈だ。


 ついでに、車両が手に入れば各地方を短時間で移動することが出来るようになる。

 そうなればジャパリパークの探索もかなり楽になる筈だ。


 案の定、オオウミガラス達はバスの存在を知らないようで、私にバスって何?と聞いてきた。

 なので、私は港の建物の中にあったパンフレットの一つに描かれているネコ科の動物を模した乗り物を指差す。


 バスとは人や物を乗せて走ることが出来る乗り物なのだが……

 フレンズ達に一から説明するとなると少々難しい。


 そもそも乗り物の概念が廃れかけているのに乗り物と言ったところで分かるわけがないのだ。

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