一人と一匹の冒険 その3『こうざん』

明日志磨

第1話

「う~、高いよぉ……一体どこから登ればいいんだろう?」

 ジャガーと別れてから一目散に山を目指していたブチハイエナだったが、山が近付くにつれ、眼前にそびえ立つその高さに気圧され、行き足が止まってしまった。

 何とか登れそうな場所を探して右往左往してたブチハイエナたちに、尻尾の長いフレンズが気さくに声をかけてきた。

「おや、見ない顔だね? もしかしてあんた達も『かふぇ』に行くのかい?」

 地獄にジャパリまんとはまさにこの事。どうやら声をかけてきたこのフレンズは、カフェへの行き方を知っているらしい。

「『かふぇ』……! そ、そうです! えっと、はじめまして。私はブチハイエナ。この子がアードウルフのアーちゃん」

「ふ~ん。フレンズ化してない友達って珍しいね。私はフォッサだよ。『かふぇ』に行きたいなら、この先に長ーいロープが繋がってる変な建物があるから、そこに行けばいいさ。ま、あとは行けば解るさ」

 フォッサに厚くお礼を言い、ブチハイエナたちはまた木々の間を歩み進む。しばらく行くとその言葉通り、長いロープが伸びている奇妙な建物に辿り着いた。

 見渡した限りでは、そのロープは確かに山頂まで繋がっているように見受けられる。そして、さらに奇妙なことにそのロープには変わった『箱』が一つ、ぶら下がっていた。

 箱の横には立て看板があり、中にある椅子に跨がって小さい二つの板を足で交互に踏めば、この箱が前に進む事が親切にも絵で解説されている。

 いくら未知の物体でも、ここまで説明されればブチハイエナでも十分理解できた。


「わっせ、わっせ、わっせ……」

 動物化しているアードウルフはペダルを漕げないので、必然的に動力役はブチハイエナの出番となる。

「凄い、すごーい! 空中を進んでるよアーちゃん!」

 ブチハイエナの後ろでアードウルフがふっ、ふっ、と独特の鳴き声をあげた。どうやらアードウルフも感銘しているようだ。


「ちょっと……はぁはぁ……疲れたかな……」

 額に少し滲んだ汗を拭いながらブチハイエナたちは山頂に足を下ろした。

「きっとあの建物が『かふぇ』だね」

 長いロープの終点には、山麓にあった建物と似たような不思議な建物があり、そこから出るとすぐに青い屋根の建物が目に入った。

 ロープが張ってある固い建材の建物とはまた違った趣の変わった建物。しかしロープがあったそれらの冷たい建物とは違い、どことなく安らげるような雰囲気が感じられた。


「いらっしゃぁーい! よぉこそジャパリカフェへ~!」

 扉を引いて中に入ると、突如として大声で出迎えられたので、ブチハイエナたちは面食らって立ち竦んでしまう。

 しかし声をかけてきた当の本人は気付かないのか、お構いなしに話し続けてきた。

「久しぶりの鳥じゃないお客さんだよぉ! いやトキさんとかは結構来てくれるんだけどねぇ、場所が場所だからかぁ、ココへ来てくれるお客さんは鳥のフレンズが多くってねぇ! それで何とかしようとハカセにぃ相談したりしたんだけどねぇ! それでぇ-、色々あるけど何飲むー? オススメは紅茶だよ! あ、紅茶って言うのはぁ……」

「あ、あのっ! 私たちはここに博士がいるって聞いてやって来たんですけど……」

「なんだ……お客さんじゃないのか……ぺっ!」

「ふわっ!? あの……す、すいません!?」

 なぜ謝っているか、自分でも分からないブチハイエナであった。


「そうですか……博士はもう居ないんですか……」

「飛べないみんなにも来て貰いたかったからぁ、ハカセに相談したんだよぉ。そしたら~、あの『ろーぷうぇい』? をもっと分かり易くしたらいいんじゃないかって話になってぇ……タイリクオオカミさんに、絵を描いて貰ったんだぁ~。とりあえず紅茶どうぞどうぞ」

 聞くところによると博士(とその助手)はアルパカの依頼を済ませると、すぐに帰って行ったそうだ。店主であるアルパカが、気落ちするブチハイエナの前に珍しい飲み物を置いた。

「あ、どうも……頂きます」

「そちらの子はどうしようかねぇ……水とジャパリまんでも大丈夫かなぁ?」

「アーちゃんはこの姿でもジャパリまんを食べられるので、それでお願いします」

 アードウルフの前に水の入ったお皿と、食べやすいように四つほどに分割されたジャパリまんが置かれた。アードウルフは机上に座っているが、元動物のフレンズ達にとってそれは特に気にすることではないらしい。

「わーたぁーしはぁ~、ト~キ~♪ 仲間ーを~……あら? 先客かしら?」

 ブチハイエナたちがアルパカと一息ついていた時、外から奇妙な歌声が聞こえてきた。店内にいても聞こえてくる力強い声だ。

「いらっしゃ~い! 今日は一杯お客さんが来てくれて嬉しいねぇ! やっぱりハカセに相談した甲斐があったねぇ!」

 これで一杯なの? とブチハイエナは不思議に思ったが、あえて聞かなかった事にした。

「こんにちは。私はトキ。歌うのが好きなの。貴女たちも喉に良いから、ここの紅茶を飲みに来たのかしら?」

「いえ、私たちは博士を探してて、ここに居るって話を聞いて来たんだけど、どうやら一足遅かったみたいで……」

 ブチハイエナの横に座ったトキにも、アルパカがすぐ紅茶を煎れて来た。それを一口、美味しそうに飲んでからトキは机の上にいるアードウルフを見つめて話題を切り出した。

「もしかして、博士を探している理由はこの子に関係があるの?」

「はい。私はブチハイエナでこの子はアードウルフのアーちゃん。サンドスターがある山に入るために博士の許可を貰おうと思って、それで博士を探してたんです」

 それを聞いたアードウルフがふへっ、と鳴き声を上げてブチハイエナの方を見た。

「え……なになに? そこまで考えていたのか? ですって~? 酷いよアーちゃん! だから私に『ひさく』があるって言ってたじゃない。それとも、私が考え無しで突っ走ってたと思っていたの!?」

 アードウルフは黙ったまま、視線を逸らすかのように顔を背けた。

「ひどいや、アーちゃん~!」

 その声はカフェ中に木霊した。アードウルフと意思疎通できないアルパカとトキは何事かと、呆気にとられていた。

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