第2話

野球選手は競争が激しいのはいうまでもない。

怪我をすれば試合には出れない。試合に出れなければ、年俸は減らされ、ポジションだって奪われる。

身体が資本、というのはすべてのスポーツ選手に共通であり、練習以外で怪我をするなどもってのほか。

町へ繰り出しながらも走ったりはせずにゆっくり歩く。

ゆっくりといってもスポーツ選手基準であるため、一般人からして見れば十分に早めである。

赤城が尋ねる。

「どこ行く?」

「知らん。テキトーに歩く。」

加賀は赤城のほうを向かずに呟く。

相変わらず捕手のくせに適当だなと思いつつも口にはしない。

かわりに肩を叩く。

加賀は前に倒れそうになるが持ち前の体幹で持ちこたえた。

「なんか欲しいもんとかねぇのかよ。」

質問を変えて加賀にもう一度聞く。

「んじゃ本屋でも行くか?」

赤城としては別に欲しい本なんてないがこのまま街をうろついても意味はないと思い、本屋を探すことに。

「なんか欲しいもんあるのか?本で?てかお前本なんてよむのか?」

「いや、俺図書委員だったから。小学生のころ。」

噛み合わない会話にイラっとするも、このまま続けても意味はないと判断した赤城は会話を一方的にスルーした。

一方のスルーされた加賀はなぜだか小学生の頃の遠足の話しを始めた。

赤城は興味もないのでスマホを取り出しイヤホンを差し込み、音楽を流す。今流行りのバンドと言われ買ってみたが、特に好きではない。

ただ手持ち無沙汰だし、小学生の頃の遠足の話しよりはマシと考え、周りの雑音(小学生の頃の遠足の話し)が聞こえない程度に音量を上げる。

本屋を探して歩いてみるが意外と本屋は少ない。

少しずつイライラしてきた。

加賀が(どうやら遠足の話しは終わったらしい)そういえばといった感じで話をする。

話が終わってそうだったので赤城も音楽を止め、イヤホンをスマホに巻きつけ、そのままポケットに突っ込む。

「なぁ。」

「あんだよ?」

「そういや、お前、佳奈は…」

「おい。」

加賀が全てを口に出す前に、赤城は加賀の口を閉じさせるように口の辺りの頬を掴む。

はたから見れば加賀は随分と滑稽な顔をしている。にらめっこならとても面白い顔である。

だが果たして笑える人がいるのだろうか?

赤城の顔は誰の目にも明らかに不機嫌に、余計な事を言うんじゃねぇと語っている。

そんな赤城を知ってか知らずしてか、ブサイクになっている加賀は気にせず喋り続ける。

「最近連絡とってないの?俺この間会ったんだけど…」

「黙れ。」

いよいよ一触即発の空気になる。街行く人も、ガタイのいい男2人が今にも殴り合いそうなのをみて、早々と通り過ぎて行く。

関わりたくないと誰もが思っているだろう。

全ての人の心情を無視して、加賀はまだ話を続ける。

「旦那さんと別れたんだってさ。なんでも相手が浮気したんだって。笑えるわな。」

赤城は掴んでいた手を離し、静かに言う。

「…まじか?」

そこには短いながら驚きとそして少しの喜びらしき声色が含まれていた。

幼馴染である、加賀だけが気づけるほど、ほんの少しの嬉しさも。

「…普通は喜べないぞ。幼馴染が離婚したってのに。まぁでも相手も相手だし。」

相手も相手の意味は二つほどあるのだろうが、赤城は気にせずに歩き始めた。彼の心のうちが加賀にバレていたことは気づかなかった。

加賀もこれ以上は何も言わずに赤城の後ろについて歩く。

本来の目的本屋を探す。

彼らは歩き続け、雑居ビルのあいだの少しずつ細い道へ、奥へ奥へと進んでいたが、何かに導かれるように、ふと足を止めた。

彼らの前には古めの本屋があった。だが何故だか入る気が起きなかった。そして、何故本屋だとすぐに認識できたのか。わからなかった。

「なぁ、ここ入るか?」

「ここ以外に本屋ないじゃん。いいよここで。」

どうにも良くないことが起きる気がする。

ニャーと声がするので声の方へ振り返る。そこは横の幅5センチほどの細道(道というよりも横のビルの建築の際に生じたズレといった方が正しい)

黒猫が一匹、細い道をくぐり抜けて出てきた。

「おいおい、黒猫ってマジかよ。不幸すぎるぞ。」

突然の不幸の使者の到来にいよいよ帰りたい欲求が湧いてくる。

「おい加賀。めんどいが帰るぞ。良くないことが…」

赤城は撤収を決め、加賀を引き連れて帰ろうとするが加賀はすでにいない。

「おい?どこだよ?まさかあいつ…」

まさかこの5センチほどの細道に入ったとは考えられない。

来た道を引き返した訳でもなさそうだ。

と、なると残りの道は一つ。前にある本屋の中である。

「マジかよ、勘弁してくれ…」

渋々ながら本屋のドアを開ける。そこは薄暗く、小さい電球一つが学校の教室ほどの広さを照らしていた。

そこまで広くはないが、本棚がかなり高い。自分の身長以上だと、赤城は思った。ちなみに赤城は188センチほどである。

加賀を探す。本棚が高いがそんなに広くはない。すぐに見つかった。どうやらライトノベルのコーナーにいたらしい。

「何読んでんだよ?これは…ラノベってやつか。」

赤城は加賀が持っていた本(ラノベ)を奪い取って表紙や背表紙をまじまじと見る。

ヒロインと主人公らしき人物が表紙には描かれていた。

裏表紙のあらすじを読んで、

「なになに、『普通の男子高校生がある日突然、異世界へ。現代知識を使って異世界の王になる!』って、クソつまんなそうだな。」

酷評。バッサリと切り捨てる。

「いやいや、なかなか面白いのよ?これ。なんたってこのヒロインが…」

「あぁ分かった分かった。分かったから。早く買ってこいよ。」

加賀の解説もバッサリと切り捨てる。

若干不満そうだが、もう時間がないというのを確認してか本を持って会計へ向かう。

その間に赤城はラノベのコーナーをウロウロする。

「異世界、異世界、異世界、異世界…なんだなんだ。最近のラノベってやつは異世界に行くのが主流なのか?」

しばらくウロウロとしていると、なにやら気になる本があった。

ラノベにしては少々サイズが大きく、辞書ほどの厚さがある。

ふと足を止めて、本を手に取って見る。

皮のカバーに金色と赤色の刺繍らしきものが施されている。刺繍は文字のようなものを表しているのだろうか?

なにか文のようなものが書いてある。勿論読めない。

その本にはクロスするような形でベルトが巻かれている。外していいものなの考え、少しかためらったが外して見た。

なかをパラパラとめくるが白紙である。

「おい、奏太。これ何かわかるか?」

加賀をとりあえず読んで見る。

なになにどうした?と加賀が戻ってくる。手にはまださっきのラノベが握られている。

「お前まだ会計してないのか?」

「いやだってレジないよここ。店員さんもいないし。」

…本当にここは店なのか?と疑問が浮かぶ。だが、たまたまここにいないだけで、奥とかにいるだろうと考え、意識を見つけた謎の本に移す。

「こいつ。何か知ってるか?」

「いや?なにこれ?こんなラノベが出たって聞いてないし。どこにあったの?」

「いや、ここの本棚。」

目の前の本棚を指差す。大きめの本を抜き取ったため、隣の本が倒れていた。

「うーん。確かにここにあったのか。とりあえず中を読んで見ようよ。」

「さっきパラパラめくったが白紙だったぞ。全部。」

「え?じゃあもう一回ちゃんと見てみようよ。」

そう言われて赤城はページを一枚一枚めくる。加賀もページを一枚一枚見るが、どう見ても白紙である。

そういうデザインのメモ帳なんじゃないか?と考え始めたとき、最後のページに。

「ん?」

「あれ?」

今までずっと白紙だった本に一枚の紙が挟まっていた。

少し茶色っぽくなっている。色褪せってしまったのだろう。シワシワであることから前からここに挟まれていたらしい。

普通の紙と違い、羊皮紙や和紙のような、厚めの紙だった。あまり売っているのも見たことがないような紙だ。

「何か書いてあるぞ?」

「あ、ほんとだ。えーっとなになに?」

そこにはインクで走り書きされ、なんと書いてあるのかわからない文字が書いってあった。恐らくながら文章ではなく、何かの暗号のような気がした。

「読めない。」

「これアルファベットじゃないよ。多分、ルーン文字とかそういう感じのやつだわ。」

文字、というよりも記号らしきものが五行ほど羅列してある。

その最後には魔法陣だろうか?不思議な紋章が書いてあった。

「これなによ?」

「魔法陣ってやつじゃね?」

触って見た。その直後、

「へ?」

「え?」

突如、紙上に書かれた平面の魔法陣は立体的に、空間へと広がった。

驚く2人が何か動く前に、広がった魔法陣は彼らを飲む込んだ。

そして、消えた。2人とともに。







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