沢村賞投手と相方捕手は異世界独立リーグへ移籍します

マカロン

第1話

他の選手が来ない。

赤城祐一は、ホテルのエントランス名前で、辺りをキョロキョロと見回してそれらしき人を乗せた車が来ないかを確認する。

季節は夏前。梅雨が今しがた終わった、六月の半ばごろ。

まだ暑くはないとは言え、それなりに汗ばむ。早く着替えたいが自分だけではホテルには入れない。

なぜか手配ミスでいつものバスが来ず、やってきたバスが少々小さめのバスだった。

全員乗れない、ということで急遽バスに乗るものを決めるジャンケン大会が開かれる。

めでたく負けた赤城は1人タクシーでホテルへと向かう羽目になった。

早くしろよ、と心の中では思いつつも口にはせず、不機嫌なオーラを人知れずにふき出す。

「なんだよなんだよ。コーチもマネージャーも監督も来ないじゃん。連絡すらないし。」

隣の方でウロウロしながら、昔からの相方捕手、加賀奏太が呟く。

思ったことはすぐ口に出すタイプ。

加賀もまたジャンケン大会で敗北。2人目のタクシーとなったのである。

ウロウロと鬱陶しい、動くんじゃねえよとなんとなく目で牽制するが、加賀は全く気づいてない。気づいても気にしてないのかも知れないが。

そろそろブチギレそうだって頃に、タイミングを見計らってか携帯が震える。

一世代前の型落ちしたスマホを取り出して電話に出る。どうやらマネージャーかららしい。

「はいもしもし。赤城です。」

「あ、赤城くん、すまない。到着が大きく遅れて、もうあと一時間は…」

マネージャーの篠田は元々この球団の選手だったが、戦力外を受けマネージャーに転身した。

赤城にして見れば先輩で、真面目な彼にはいつも感謝している。

赤城が楽に投球ができるのも、篠田のおかげと思ってる。

「何があったんですか?」

「実は事故に巻き込まれちゃってね。事故といってもこっちは何も関わってないけど。」

「はぁ…わかりました。僕らはどうすればいいですか?」

「うん?他に誰かと一緒なのかい?」

「加賀のやつと一緒です。」

「じゃあ加賀くんにも伝えておいてくれ。ホテルには話が付いているから取り敢えず荷物は預けろ、とね。」

「部屋には入れないんですが?」

「予約した本人がいないとね…まぁもしかして入れるかも知れないけど一応待っててくれるかい?」

「わかりました。」

一言告げて電話をきる。スマホをポケットに入れ、途中から通話に聞き耳を立てていた加賀に告げる。

「ということらしいぞ。」

「んじゃどっか行こうぜ。どうせしばらく来ないんだし。」

赤城は少し考えたが、まぁ一時間もあるし、ちょっと町に出るぐらいならいいだろうと判断する。

「とりま荷物預けるか。」

赤城と加賀は自分のユニフォームやらが入ったカバンを持ちながら、ホテルの受付へと向かう。

五分後、荷物を預け終えた彼らは街へと繰り出す。

有名人ぶったサングラスが似合ってない加賀が子供から指をさされて笑われ、赤城が加賀と一緒を後悔するのは実に十分後のことである。


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