第14話
クリスマスイブの前の日は、水元君の誕生日。
でも受験生にとっては……。
「私はクリスマスプレゼント貰ったのに、
水元君にあげないなんてダメだよね……」
だけど今から何を渡せばいいのかな……。
すっかりお気に入りになったあのカフェで一人ラテを飲みながら考えた。
店内の隅っこ席が私の指定席。ここで勉強をするのが何と無く日課になった。
それにナッツ入りクッキーも美味しいし。
「このお店のラテのブレンド、 確か拘りがあるんだっけ……」
クッキーの他にケーキもある。
スイーツに合わせてコーヒーのブレンドを変える。
「コーヒーとクッキー……」
実は手編みの手袋かマフラーでも贈ろうかと考えていた。
しかし間に合う訳ないし時間もない。
それに万が一嫌がられてもなぁ……。
考えた結果、私はここのカフェのマスターに頼み、受験生に合ったコーヒー豆のブレンド方法とナッツ入りクッキーの作り方を教えて欲しいとお願いする事にした。
「あの……」
カウンターでコーヒーを淹れているマスターに声をかけた。
「突然すいません! あの、 受験生に合ったコーヒーのブレンドを教えて頂けないでしょうか……? 後、 ナッツ入りクッキーの作り方も……。 厚かましいのは分かっています! でも、 その……」
しどろもどろになってしまった……。
少し驚いた様に私を見るマスターと、奥からやって来た奥さん。
「貴女よくいらっしゃる方よね? お友達とか彼氏さんと。 受験生なのね。 いいわ。 クッキーのレシピ教えてあげる。 あ、 コーヒーはこの人が教えるわ。 ね? 夕馬」
気さくな奥さんは、クッキーのレシピをメモしてくれた。
ナッツ入りクッキーは、他とは少し違う。
「彼氏のプレゼント? いいよ。 受験生用のブレンド教えてあげるよ」
やった! 「ありがとうございます!」
私はコーヒーのブレンドとクッキーのレシピを手に入れた。
「コーヒー豆、 売っててよかった。 イタリアのナッツも」
特別イタリアから取り寄せていると言うナッツ。 コーヒー豆も各国に足を運び取り寄せているらしい。
「それにしても仲の良いご夫婦よね。 羨ましいなぁ」
コーヒー豆とナッツの袋を両手に抱え、家に帰った。
「眠気がある時は少し苦味のあるコーヒーがいいよ。 リラックスしたい時はコクのあるコーヒーがお勧めだね。 豆は挽き方を変えるだけでも断然違う。 炒り方も大切だよ」
丁寧に教えてくれた。 しかもブレンドは難しいからと言って、特製ブレンドまで作ってくれた。
「本当。 いい人達で良かった。 後はクッキーを焼いて渡そう」
私は早速クッキーをレシピ通りに焼いた。
ナッツの他にもオレンジの皮をきざんで入れたクッキーも用意した。
コーヒーとクッキーを可愛くラッピングし、 準備万端。
『明日少し会えませんか?』
水元君にメールする。
『いいよ』
直ぐに返事がきた。
翌日、学校帰りいつもの駅で水元君を待つ。
手にはプレゼントの紙袋を持って。
「まだかな? 水元君……」
時間になってもまだ来ないので、メールをした。
ややあって返事が来た。
『悪い。 今日は行けない。また連絡する』
え? だって、何で?
不信に思ったが仕方ない。諦めて帰ろう。
電車に乗り駅まで向かう。
クッキーはまた焼けばいいか……。
私はクッキー片手に勉強を始めた。
と、メールが鳴る。
カバンからスマホを取り出し受信メールを見た。
「水元君だ」
『いおり、 悪いけどもう会えない。 オレの事は忘れて欲しい。 さようなら』
そう書かれていた。
「うそ……? そんなの信じない」
水元君からのプレゼントのムーンストーンのネックレスをギュっと掴んだ。
そして直接電話をかけた。
『もしもし? 樹のケータイです』
電話に出たのは幼馴染み……。
『水元君いますか……?』
震える声でそう尋ねた。
『またあなた? しつこいわね。 樹なら電話に出ないわよ? もう貴女と付き合いたくないって。 メール見たでしょ?』
『うそよ! もう騙されないか!』
電話を切り家を飛び出した。
嘘。そんな事ある訳ない!
急いで電車に乗り、水元君の家へ向かった。
「はあ……。 大きなお家。 やっぱり住む世界違うのかなぁ……」
ため息をつき、引き返そうとした時、玄関から誰かが出て来た。
「いおり? 何でここに?」
「水元君……。 ウソだよね?」
「え? 何の事⁉︎」
「だって、 電話……」
「電話? かけたのいおり? でも……」
事の真相をお互い確かめた。
「またあいつか! しつこいから出入りをやめてもらったら、 あいつオレのケータイを取り上げたんだ!」
「水元君があんなメールするって思わなかったから……」
「信じてくれたんだね。 いおり……」
「だって……私。 信じるって決めたから」
手と手を繋いだ。
温かい水元君の手。これからもずっと繋いだままでいたいと思った。
それから水元君のケータイを取り戻しに、幼馴染みの家へと向かった。
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