第12話

取り敢えずバス停にいても仕方がない。


私達はカフェで話す事にした。


「カプチーノ二つお願いします」


注文を済ませ、黙り込む。


「いおり……。 本当に悪かった。 嫌な思いさせて。 でもオレは別れたくないんだ」


「……でも、 許嫁がいるんでしょ? そんな人とは付き合えないよ。 私達だけの問題じゃなくなるし」


「その事について親と話したよ。 確かにうちは病院だし、 あいつの家も病院で、 将来を決められた。 でもやっぱり結婚となると自分で決めた相手がいい。 だから白紙に戻してもらったよ。 だけどあいつは納得しなかった……。 小さい時からそう言われてきたんだ。 仕方ないけど。 学校も同じだったし」


「それなら。 それならそうすればいいじゃないの。 彼女の気持ち考えたら……それでいいじゃない」


「だけど! オレは嫌だっ。 せっかくお前と付き合えたのに……。 せっかく」



運ばれたカプチーノをぐっと飲んだ。


「私達。 付き合っちゃいけなかったんだよ。 住む世界が違うもの。 私は普通の家の子で、 貴方は違う。 私は剣道の先生になるために頑張るから、 貴方もお医者さんになる為に頑張って……」


「いおりと別れるくらいなら、 そんな事どうでもいいよ。 うち、 兄貴が医者で跡ついでさ。 次男のオレは別にどっちでも良かったんだ。 だけどいおりの夢聞いて思い直したよ。 ちゃんとしようって思った」


「水元君……」


カップの中のカプチーノがゆらゆら揺れる。


私の気持ちみたい。



「とにかく。 やり直そう。 きちんとするから……。 オレもちゃんと勉強するよ。 だからいおり。 側にいて」



水元君の切ない顔。私の気持ちは揺れた。


嫌な思いはしたくない。でもやっぱり好きだと思ってしまう。



「考えさせて……」


そう言うのが精一杯だった。


「諦めないから……」




カフェを出て、二人電車に乗った。


もうすぐ冬になる。


駅に着き、家まで歩く。冷たい風が吹いて寒い。


「試験あるのに……」


余計な事は考えたくないけれど、やっぱりまだ彼を好きだと思う自分がいる。


偽りのない想い。


きちんと向き合わないとな。


寒い風が吹く中。家まで急いだ。

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