第11話

自分の部屋で一人。考える。


これからどうなるのだろう。やっぱり終わってしまったんだ……。


叶ったはずの私の恋。見事に砕け散った。


「許嫁か。 敵うわけないじゃないか」


呟いて、悔しくて。


「最初からダメだったんだ。 だったら付き合うとかしなくて良かったのに。 優しくしないでよ……」


溢れる涙を拭う。




カバンに入れた電話が鳴った。


「誰よ……」


カバンからスマホを取り出し画面を見た。


水元君からの着信。


私は無視した。


けれど何度も鳴る電話。さすがにうるさい。



『もしもし……』


『いおり? ごめん……。 今から会いたい』


『会う必要はありません。 さようなら』


『待って! せめて話を聴いて……』


今更何ですか?


「貴方には許嫁がいる。だから私とは付き合う事はない。 それ以外何があるの?」



『隠すつもりなかった。 でも言えなくて。 あいつは確かに許嫁だよ。 でもオレはそう思ってない。 誤解されても仕方ない事ばっかだけど、 オレが好きなのはいおりだけだから。 本当に……』


『誰が信じる? 手を繋いで電車に乗って来て! 誰が信じるのよ! もう関わらないで下さい。 もう訳分からないから……』



そう言って電話を切った。





「短い春だったな……」


ナミに慰められた。


「受験あるし、 勉強に集中するよ」


「無理するな? 泣きたきゃ泣きなよ?」


「もう泣いたし。 あーあ。 本当短い春だった……」


「相手がねぇ。 合コン行く? 息抜きに」


「うーん。 いいや。 当分無理かなぁ」


「そっか……」


ポンポンと頭を軽く叩いて言った。




部活あるし、試験近いし。忙しいから良かった。

水元君の事は早く忘れよう。


あちらの世界は私には関係ない。



秋の空は高く、もうすぐ冬の雲になる。




私は敢えて電車からバスに変えた。

会ってしまうかも知れないし、見かけるのも今はイヤだし。


帰りのバス停でバスを待つ。



「いおり!」


私を呼ぶ声がして振り返った。


走って来たのか息を切らした水元君がそこにいた。


「……何でしょう?」


低い声で小さく尋ねる。


「話……聞いて……」


肩で息をし、水元君が答えた。


「話す事はないです。 もう、 会いたくないし……」


「オレは会いたい。 いおりに会いたい。 本当に悪かった。 いおりの気持ち無視して、 軽はずみな事やって。 だけど本当にいおりしか好きじゃないから……」


「貴方の許嫁さんがわざわざ来たの。 貴方と別れてくれって!」


「聞いたよ。 オレがいおりと付き合ってるって知って、 お前の事色々聞かれた。 でもちゃんと言ったよ。 いおりとは別れないって。 そしたらあいつ、 わざとオレにくっついてきて……。 不安にさせないって言ったのに。 悪かった……」


「もういいよ。 貴方と住む世界が違うって分かったし。 それに……。 またあんな光景見たくないし」


分かってよ。ねえ。私、嫌なの。

二人の姿見たくないの。だからお願い。もう

ほっといて。


「別れないから。 絶対に……。 ずっと好きだった。 いおりの事。 だから怪我させた時、 焦ったよ。 申し訳ないって思った。 でも近づくチャンスだって思って……」


何ですと?近づくチャンス……?


「何よそれ。 そんなの知らないよ」


「近付いて、 告白するつもりだった。 怪我治っても一瞬にいたいって」



思わぬ告白に驚いた。


いやしかし……。やっぱりダメだよ。

許嫁とか本当にやだし。



「もう一度。 もう一度だけチャンスくれないかな? きちんとするから」



真剣な顔の水元君。


戸惑う私……。どうしよう。


「分からないよ。 どうしていいか。 それに困る……から……」


「もう一度だけ……」



水元君に押しきられてしまうの?

嫌な思い、またするの?


本当に困ってしまった……。

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