第10話
「完全に二股? それとも単なる偶然か……」
頭と気持ちの整理のつかない私は、家に帰るなり自室のベッドに横たわった。
手にはスマホを握りしめ、水元君の名前の欄をなぞる。
「電話もメールもないんだ……。 本当に」
確かにあの時は何も聞きたくないと思ったし、もういいや。とも思った。
しかし本当に何も言ってこないって事は、もう私への言い訳も面倒になったのかな。
そりゃそうだ。手を繋いで電車に乗って来たんだから、何の言い訳があるの?
「終わったなぁ……。 もう」
私の中に湧き上がる気持ち。
それはもう終わったと言う気持ちだった。
「そりゃ可哀想に……」
学校でナミに昨日の事を話した。
「本当だよ。 立て続けにだもん。 もう終わったんだなって思うし」
「まあ、 何て言うかねぇ……」
ポンポンと私の頭を軽く叩く。
「やっぱり最初から無理な恋だったんだ。 告白しなきゃ良かった」
机に突っ伏し、ため息交じりに言った。
「片想いのままで良かった? どちらにせよ、 つらい思いしたのかね」
「分からないよ……」
受験勉強しなきゃならないのに、何でこんな思いしなきゃならないのよ。
でも試験はもう間近だし、こんな事で失敗したくない。
駅へ向かう途中、冷たい風が吹きすさぶ。
私の中にも寒い風が吹いて、虚しい気持ちがまた顔を出した。
「あの……? 失礼ですがいおりさんですか?」
突然目の前にクリーム色のコートを着た可愛らしい女の子が目の前に現れ、私に声を掛けてきた。
「あ……」
昨日のあの子だ。
直感的にわかった。
「水元君の……」そう言うと 「はい。 幼馴染みです。 昨日お会いしましたよね?」
少し微笑んでそう言った。
「私に何か……?」
警戒している訳ではないのに、心臓が掴まれた様に痛くなり、この場を離れたかった。
この人が私に何の用があると言うのか。
「樹から貴女の事を聞きました。 樹と私は幼馴染みですが、 いずれ結婚するつもりです。 許嫁……。 と言えばいいかしら? だからもう、 彼には近付かないで下さい」
はあ……。 許嫁ですか。
不思議と余り動揺はなかった。
昨日の二人を見たからかも知れない。
「水元君とは多分別れたと思います。 ご安心下さい。 ではさようなら」
パパっとそう告げその場を後にした。
少し驚いた表情をした彼女の顔が見えたが、振り返らずに行った。
「何なのよ。 本当に……。 あの人に何か言わせる水元君の気持ちが分からない」
ポツリと言い、駅の階段を上がる。
ホームで電車を待っていると 「いおり……」
私を呼ぶ声がし、振り返った。
「あ……」
水元君。
水元君が私の方へと歩いて来る。
「いおり……。 話がしたい」
「話す事はないです。 すいません」
丁度来た電車に乗ろうとして、腕を掴まれた。
「聞いて! いおりっ」
「離して下さい!」
パッと掴まれた腕を振り切り、電車に乗りこみ、ドアが閉まる。
水元君はその場に立ち尽くす様に私を見ていた。
さっさと椅子に座り、掴まれた腕をさすりながら 「本当、 何なの……」
そうため息をついた。
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