第8話

「あれは見間違い……」


自分に言い聞かせたい。でも確かに水元君だった。

仲良さげに電車に乗って。しかも何で嘘つくのかな。


言えない理由がある?



部屋のベッドにうつ伏せになり、あの場面を思い出した。


「ありがち過ぎて、 笑っちゃうよな」


本当。良く聞く様な話過ぎる。




机の上の電話が鳴った。


よいしょっとベッドから起き上がり、スマホを見た。


「メール……。 水元君だ」


私は少し躊躇したが、メールを開く。


『最近勉強忙しくて。 でも明日少しお茶しよう』


そう書かれた文面を見て、直ぐには返信できずにいた。


何故か分からない。いや、分かってる。


水元君の誘いは嬉しい。けれど反面怖かった。 何かを言われるかも知れない。何かを言ってしまうかも知れない……。


でも、断る理由は無かった。


『分かりました。 放課後メールします。』


そう返信した。




翌日、ナミに早速愚痴まがいに報告。


「知らん顔して会えばいいじゃない? それか聞く? こないだ見かけたんだけどって」


「聞きたい……かも……。 でも怖い……」


「悶々と考えてても仕方ないでしょ? なら聞いて楽になれば?」



結局はハッキリさせたい? 何だか分からないのはイヤだし。


「……聞いてみる。 怖いけど」


「慰めてあげるよ」




放課後、駅で水元君と待ち合わせして、いつものカフェへ入った。


コーヒーの美味しいカフェ。

私はアイス・ラテを注文した。



「いよいよ追い込みだね。 勉強はかどってる?」


ホットコーヒーのカップを持ち、水元君が話た。


「うーん。 まあまあかなぁ……。 今部活で指導したりしてるよ」


「へー。 先生って感じだね」



ラテのグラスの中の氷がカランと音を立てる。


私はグラスをじっと見たまま 「先生なんて。 そんな感じじゃないよ……」


小さく答えた。


頭の中は、こないだの事でいっぱいにらなり、心もギュっとしている。

いつ切り出そうか。 どう聞こうか。


グラスの氷が溶け出しても、それを飲もうとせず、どうしようかと考えていた。



「何かあった……?」


俯いたままの私の顔を覗き込み尋ねる。


「……あのさ。 こないだ電車乗ってたでしょ? 女の子と……」


ついに言ってしまった。もう取り消せない質問を切り出した。


「見た……?」


「うん……」


「幼馴染みで、 同じ学校の子なんだ。 別に隠そうとかしてないけど、 余計な心配とかかけたくなかった……」


「仲、 いんだね」


「昔からの幼馴染みだから……。 あっでも! それだけ、 だから」



必死な顔で説明する水元君。


嘘じゃないかな……?



「一緒に参考書買って、 同じ大学受けるから……一緒に勉強した……」


「本当。 仲良しなんだ」


「やましい事ない! 好きなのは……いおりだけだし……」



カランッと氷が溶ける音がした。

すっかり水っぽくなったラテを飲む。


本当に私だけ?信じていいの?



「分かった。 信じるよ。 でも何かやだな。 少し……」



本音をぶつけた。



「ごめん。 不安な思いはさせないから」


「うん……」




とにかく。仲良しな幼馴染みは要注意だ。


モテる彼氏は何かと気疲れしそうで、この先大丈夫か?私。


ラテを飲み干し何とな思った。

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