第7話

水元君と付き合い始めて一週間が経った。


朝の電車で会う以外はお互いメールでやり取りするだけ。

忙しいから仕方ない。けど、やっぱり何か寂しいな……。



「何だか付き合ってる実感ないんだよね。 まあ、 お互い大事な時だし仕方ないけど」


学校の中休み、ナミに愚痴を言った。


「仕方ないって分かってるじゃん。 なら我慢しなよ。 受験ひと段落したらベッタリできるんでしょ?」


「うー。 分かんない……」


「何だそれ」


水元君は優しい。電車で会う時もさり気なく気を遣ってくれるって言うか。

でも、何かあんまりベタベタするのは好きじゃないのかな。


ふいに手に触れそうになった時、さっと拒まれたし。


付き合ってるって言っても、メールが主で。

でも大事だって言ってくれたし。

今だけ我慢すれば……。


自分で自分を納得させた。



放課後になり、私は部活指導の為部室へと向かう。


更衣室で防具を付け、指導開始。


「おはようございます。 宜しくお願い致します」


揃って挨拶をした。


部活指導をしている時は、水元君の事は頭から離れる。

公私混同はしない。


だけどやっぱり指導に身が入らない……。

付き合うってこんな感じなのかな。


いやいや。今だけだ。再び自分に言い聞かせた。




学校を出た時は、すっかり夕暮れ時になっていた。

私はメールのチェックをする為、カバンからスマホを取り出す。


「メール、 ない……」


一日一回、必ず水元君からメールがくる。

多い時は三回。


「昨日はこの時間、 メールきたのに」


何だか胸がモヤモヤしてきた。


「忙しいだけだよね……」


小さく言って駅へ向かった。



駅のホームで電車を待つ。

オレンジ色の駅のホームはとてもきれい。


何て見ていたら、電車がホームへすべりこんで来た。


何気無く電車に乗った私は、目の前に飛び込んできた光景にはっとした。


「水元君……?」


水元君が女の子と二人、仲良さそうに座っていて、何やら本を見ているではないか。


寄り添う様にして、座る二人。

私には気がつかない。


衝動的に私はドアが閉まる瞬間、電車を飛び降りた。


「何で? だってこの駅から電車乗るはずだし……」


一瞬の出来事に頭がパニックになる。


メール、しようか……。見間違いかも知れないし。


私はスマホを取り出し、水元君へメールした。


『今部活終わりました。 駅にいるのですが、少し会えますか?』


震える手で文字を打ち送信した。



暫くして返信がきた。


『ごめん。 もう家に帰って勉強中。 またメールするよ』


やっぱり見間違いだった?いや、そんな事はない。



「同んなじ学校の子かぁ。 制服一緒だったし。 参考書見てたのかな。 仲良く……」


会えないだけで寂しいのに、あんな光景を見てしまったら、どうしていいか分からなくなる。


何か理由があるはず。

そう思いたいけど、敢えて嘘をつかれた事に気持ちが落ち込んだ。


「付き合うって、 無理だったのかな」


オレンジ色の駅のホーム。

私は次の電車に乗った。





「ありがちな話だな」


学校の昼休み、ナミに昨日の事を話した。


「ありがちだよね……」


「よくある事だ。 落ち込んでも仕方ない」


「納得いかない……」


「そう言われても、 私は困る」


お弁当、食べられない……。


理由があるなら言って欲しいのに、何で嘘つくのかな。


「片想いよりツライかも。 仲良しな光景みちゃったし……」


「言えないから嘘ついたんでしょ? 余計な詮索は嫌われるよ? まあでもあっちが悪くなるのか」


「ただの友達だと思うけど、 やっぱりやだな」


「モテる彼氏だ。 仕方ないよ」


ナミの軽い慰めさえ、嫌になる。




モヤモヤした気持ちは、ずっと消えない。

仲良く二人で並んで座っていた事もイヤだけど、嘘をつかれた事がもっとイヤだった。


隠す理由があるのかな?言えない事、あるのかな。


トボトボ俯きながら学校を後にした。

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