第5話

夏の終わり片想いに終止符を打つ。


まさに少女漫画の世界を突き進もうとしたのだが……。


通学の電車が同じだし、会えば話をしてしまう。

中々終止符は難しい。


けれど傷は浅い方がいい。



ナミの友達情報追加版だと、猛烈アタッカーと水元君は仲が良いらしい。

付き合うとかはないみたいだが、可愛い子らしくまんざらでもない?


等と聞いてしまえばやはりヘコんでしまう。

けれどやっぱり好きな人だし、あたって砕ける?


でもそうなると、電車で気まずくなるし。

それに話もできなくなってしまう。


ウジウジ虫の私、どうしたい?


好きなままなら。ただ好きなまま。それならいいかな。


例え彼女ができてしまっても、好きでいる事は自由だよね。

何も言わず、いつも通り……。




「アホか?」


学校の教室でお弁当を食べながらナミに話したら言われてしまった。


「だって。 振られるのわかってるし。 気まずくなりたくないし……」


「まあ確かに? 不毛な片想いに終止符を打つのはいい事だと思うよ? だけど、 どうせなら砕けてしまえ。 欠片なら拾ってあげるし、 後腐れなくがいいでしょ」


「ナミの腹黒……」


「ただ好きでいるだけなんて、 よくまぁそんな発想できるよね。 告白くらいすれば? お茶誘ったのはまあ償い? かもだけど、 案外上手くいくかもよ。 敵は多そうだけど。 でも、 また誘うって言ったんでしょう? なら言っちゃえば?」



お弁当を頬張りながら無責任な発言をするナミ。

散々色々言ってたのに、簡単にまあ。



「そりゃ言いたいけどさ。 ダメだったら電車の時間変えなきゃじゃない。 それに話もできないなんてやだ」


「夢見る何とかじゃないんだよ? 言わなきゃ後悔するんじゃない? 諦めなよとか言っといてなんだけど」


「そうだよ! ナミ何か言ってたじゃん。 なのに何で意見変えるの?」


箸を片手に力説してしまった。


「何だろうね。 ただあんたを見てたら可愛いなぁって思ってさ。 片想いもいいけどやっぱり先に進んで欲しいなって」


ナミには珍しい優しい微笑みでそう言った。


学校の教室。机を向かい合わせてナミとお弁当を食べる私。


少しだけ温かな空気に包まれた気がして、ちょっと言ってみようかな。水元君に……。

何て思ってみたりした。


砕けたら、ナミに拾ってもらおう。




そんな決意みたいな物をしたが、いざとなると中々チャンスがない。


あれ以来電車で話すがお茶には誘われず、こちらからも何と無く誘えずにいた。


いやいやダメだ。きちんとしなきゃ。


しかし部活やら勉強やらで私も忙しく、気が付けば秋になっていて、恋だの何だのと言えなくなってきた。


ああどうしよう……。


何て思っていた学校帰りの電車で、バッタリ水元君に出会った。


「今帰り? 随分遅いんだね」


「ええまあ……。 部活指導頼まれまして」


「へー。 凄いね。 あ、 足。 もう大丈夫? ごめんね。 病院付き添いしたかったけど、 色々忙しくて」


「いえ。 気にしないで下さい。 受験近いし大変ですもん」


「大変なのはお互い様でしょ」


少し肌寒い車内。並んで座るのは久しぶり。

それがとても嬉しかった。



「水元君はどこ受験するの?」


恥ずかしさを抑え質問した。


「実はさ。 オレ医大受ける予定なんだ。 親が医者でさ。 自然の成り行きって言うのかな? 外科医になりたいって思って」


はあ。 お医者さんですか?レベル違うなぁ。


やっぱり王子様みたいな人は言う事も違う。


「お医者さんて、 凄すぎるね……。 世界が違うって言うか」


「同じだよ。 目標に向かって頑張ってるんだから。 それに自分の夢語る高瀬さん見てたら、 オレも自分の夢頑張ろうって思ったし。 だから高瀬さんのおかげなんだ」


水元君はキラキラしていてやはりカッコいい。内面からして素敵な人だ。


益々恥ずかしくなり俯いてしまう。

色々と本当に恥ずかしい……。


「お茶。 中々誘えなくてごめん。 ひと段落ついたらまた行こうよ」


さらりと言われ、耳まで赤くなってしまったと思う。


こんな方からのお誘い、誰が断る?

あ、でも。水元君に気持ちを伝えてしまったら、お誘いも無しになるかも知れないな。


私の複雑な気持ちを乗せたまま、電車は走り水元君は自分の駅で降りてしまった。


「またメールするよ」


ドアがしまる瞬間、そう言ってかけて行った。


残された私は自問自答しながら電車に揺られる。


どうするよ、本当に。


淡い淡い私の恋心。今時珍しいって言われるけれど、人を好きになるのは真剣だから。


水元君と言う人を再認識してしまった私。

言うか言わぬか悩みに悩む。

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