第4話

放課後になった。

教室で私はナミを前に緊張している。

机の上にはスマホ。


先程からスマホを持ったり置いたり落ち着かない。


「はーぁ……。 ねえ? 早くメールしなよ。 拉致あかないし」


大きなため息と共にナミが口を開く。


「う……。 だって。 本当に緊張する」


「私。 これからデートなの。 分かる? 時間ないのよ。 早くしてよね」


ナミにそう言われ、勇気を出しいざメール。


『今から学校出ます。』


送信ボタンを押した。


「あ! 何処で待つとか入れてない! どうしよう」


「あのねぇ。 送ったメールは消せないの。

別に何処でもいんじゃない? 向こうが言ってくるでしょ」


その言葉通り、返されたメールには 『じゃ、 駅で待ってるよ』


そう書かれていた。


「ナミ! ありがとう! 私行くっ」


勢い良く立ち上がったが、足が痛む。


「怪我人なんだし、 ゆっくり行けば?」


ナミに言われ、ゆっくり教室を出た。


「あんまりはしゃぐなよ? まだ分からないんだしさ」


校門で別れたナミは優しく言った。


「ありがと。 何とか頑張る」


イマイチ話が噛み合わないのは、私がうかれているからだろう。

でも。あくまでお詫び。


それは忘れない。



駅に着くと、既に水元君が待っていた。


「すいません‼︎ お待たせして」


「平気だよ。 それより急がなくて良かったのに。 足、 痛いでしょ?」


「ちょっとだけ……」


「無理しないで。 じゃあ行こうか」


並んで歩き出した。


着いた先は、先日ナミとお茶したカフェだった。


「ここ、 知ってる? 結構有名なんだよね」


「はい。 知ってます。 可愛いお店ですよね」


店に入り、テーブル席へ座った。


「いらっしゃいませ。 ご注文は?」


可愛らしい女の人が注文を取りに来た。


こないだは見かけなかったけど……。


「オレはラテ。 高瀬さんは?」

.

「じゃあ、 私も」


「少々お待ち下さいね」


にこやかにカウンターの向こうへと消えた。


「本場のコーヒーが飲めるって人気なんだよ。 夫婦で経営してるらしいよ」


さりげなく、カウンターへ目をやると、ナミの言ってたイケメンさんがコーヒーを淹れていた。

その横で微笑む先程の女性……。


奥さんか。


この前は、本当に気にならなかったが、可愛らしい店内は不思議の国のモチーフだし、色々と拘りあるお店だ。


テーブルも椅子も、どしっとした木でできていて、何か高そう。



「お待たせしました」


ラテがテーブルに並ぶ。

女の人はにこやかに去って行った。


大人の人だ。


比べて私など子供過ぎる。


私はそんな気持ちでラテを口にした。


「美味しい」


やはりこの前の私はどうかしていた。


こんなに美味しい物に感動しなかったなんて。


「良かった。 元気出た?」


「え?」


「何か元気なかったじゃん? 最近……。 いつも明るいのに。 オレが怪我させたからかなとか思ってさ。 気になってて……」


言われてビックリ。俯いてしまった。


「あの! 気にしないで下さい。 はい。 水元君悪くないし。 それに、 嬉しかったです。 今日……」


「本当? なら安心したよ。 部活できないし、 不自由な思いさせてるし、 ずっと考えてた」


「全く問題ないから! 気にしないで大丈夫です!」


つい力説してしまった。


「元気でて良かった」


爽やかに笑った。




「今日は本当にありがとうございます。 美味しかったし、 嬉しかったです」


帰りの電車。二人並んで座る。


「また誘っていい?」


「はい……。 あっ。 部活ちょっと出るから、 都合合うか……」


「部活ない日に誘うよ」


「ありがとうございます………」


オレンジ色の車内は、やっぱりオレンジだけど。今日のオレンジは幸せな色。


水元君を一番近くに感じた。


振り返り、手を振る。


電車が動くまで、手を振って。


それが凄く嬉しかった。




翌日、ナミに昨日の事を報告した。


「まぁ、 良かったんじゃない? 取り敢えずまた前進?」


「だといんだけどさ。 今日も朝電車で向こうの友達に会ってからかわれて。 水元君やな思いしてないかなぁ。 とか、やっぱり彼女いるのかなとか……」


「ふーん。 さぐるか?」


「ナミ様。 色々お願いします」


「色ボケするなよ?」



ナミには本当頼りっぱなしだ。


私はナミの友達にもお礼をしなきゃと思った。


今日は久しぶりの部活。

三年で受験あるからあまり出ないけど、一応主将してたし、色々見なきゃいけない事がある。それに、そろそろ本格的に勉強始めないと。

夏の終わりなのに今から勉強って感じだが、偏差値自体に問題ない。

苦手科目を復習すればいいだけだ。


「本当に色ボケしてられないな。 実技もあるし。 剣道……。 身体なまっちゃう」


部員の姿を見て、 ぽつり。漏らした。



その日の夜、ナミから電話があった。


『朗報ではないが……。 あんたの想い人。 確かに彼女はいない。 しかしもてる。 意味分かる? 言い寄る相手がいるって事。 で、 その中に長い事彼を想う子がいる……』


『え? どうしよう……』


『完全彼女じゃないらしいけど、 あんたに負けないくらいかね。 あ、 後あんの事は別に気にしてないらしい。 やっぱり責任? 紛らわしい責任感よね』


そんな……。

一気に突き落とされた気分になった。


もてない訳ないのは分かっていたけど、熱烈アタッカーがいるなんて。


取り敢えずのナミの慰めを受けだが、やるせない気持ちになる。


やっぱり諦める?


またもや一人の世界を彷徨った。

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