第91話

佳子「あたしも、養子なんだ」



え、初めて聞きました。これ、重要な話ですよね。なぜ今?

僕がそう思うと、佳子さんは続きを話した。



佳子「大観光の社長のところにも、ずっと子供ができなくて、

   世継ぎがいなかったのよね。

   それで、あたしは社長の弟の家で生まれたんだけど、

   小さいときに、社長の家に養子に出されたの」

僕 「そうだったんですか」



僕はそう言ってから、気づいた。



僕 「そしたら、あの、じじ、おじさんが、

   佳子さんの本当のお父さんなんですか?」

佳子「そう。実はね。

   でもね、あたしもワンコちゃんと同じように 

   赤ちゃんのころにもらわれていったから、

   あたしは知らないことになっているの。いまだにね。

   でも、あたしはパパとの間に何か違和感を感じてて、

   それで、大人になってから雑誌の仕事で役所に行ったときに

   戸籍謄本を見て、事実を知ったのよね。

   今だったら『妊娠しました』とか

   みんなツイッターとかで発信しちゃうから 

   こんなことできないけど、

   昔は妊娠とか出産とかの情報ってそんなに出回らなかったから、

   あまり知られることもなく、できたみたいなのよね」



そうか、それでじじは佳子さんに早く結婚しろとか

そのほかセクハラチックな発言もするわけか。

でも、本心では、それは早く孫の顔が見たい、ということなのか。



僕 「でも、じじが本当のお父さんだって、

   知ってて言えないのって、つらくないですか」

佳子「そりゃ、つらいわよ。

   でも、それを言っても仕方ないの。

   そういう設定で生きているんだもん」



僕は、佳子さんの人に言えない寂しさを、初めて知った。



僕 「そうだったんですか」

佳子「そう。しかも、私が養子が来てしばらくして社長の家に

   男の子が続けて生まれてね。

   あたしは結構疎まれたの。

   大観光は、弟たちの誰かが継ぐって決まったのよね。

   でも、弟たちが大人になってからは

   大観光を継ぐのがいやだって言ったから

   話はややこしくなって、結局あたしが継がないか、

   みたいな話になったのね。

   でも、何をいまさらって感じだから、今も断ってるのよ」



それもまたつらい話だ。


養子に来たとたんに、実子ができて、疎まれて、

でも、実子が継がないとわかったら、継いでくれと言われ、断る。


佳子さんの人生は、このかわいらしい顔とは裏腹に、

とんでもない運命を背負っている、と感じた。


と同時に、もうひとつ、気づいたことがあった。

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