第90話
佳子「ネットがものすごく発達しちゃって、
人と人、モノとモノ、いろいろな組み合わせが
すぐに、たくさんできる時代になっちゃったのよね。
コラボっていう言い方もあるけれど、もうすでにコラボだけなの。
こういう世の中って、便利で、一見つながりがあるように見えるけど、
本当につながっているかどうかは、心が決めるものなのよね」
僕 「そうですよね」
佳子「物理的なつながりが精神的なつながりとは限らないし、
むしろ、つながっていないことがすごい多いと思うの。
皮肉な状態よね。まるで早稲田の現代文みたい」
また、皮肉と現代文の話になった。
佳子「もちろん、組み合わせがたくさんできるようになったおかげで
女性と女性、男性と男性も組みやすくなったのよね。垣根が低くなったのよね。
夫婦を超えてゆけ、なんて歌も去年出てきたじゃない。
それはそれでよくって、好きな者同士はそれでいいのよ。
だって正しい変態であるうちは、他人に迷惑をかけていないからね」
僕 「あ、正しい変態、出ましたね」
佳子「うん。あたしも、正しい変態でありたいな。あたしは男女でね」
おお、佳子さんまたうれしいことを言ってくれる。男女の男って、誰ですかあ。
僕が質問しようとすると、佳子さんが機先を制した。
佳子「あと、組み合わせはたくさんできるけど、やっぱり大事なのは、縁ね。
全部の組み合わせなんて、とても体験できないし、する必要もないけど、
でも、何度も出会ったり、すごく印象深く出会ったりする組み合わせって
やっぱりあるでしょ。それって、神様がそれを勧めてくれているわけだから、
そういう縁は大事にしないと、いけないなって思うな」
僕 「僕、それ、今回の件でほんとに思いました。縁って大事なんだって」
佳子「そう?」
僕 「はい。佳子さんもそうですし、『涙をこえて』もそうです。
僕は、20代30代ののうちは
まったくこんなことに気づかなかったんですけど、
40代になって、縁の不思議さや、人間の出会いの奥深さ、
そして歌のもつ力に圧倒されました。
これって、スマホばかりの世界にはない世界なんですよね。
スマホにつながりはあるけど、縁まではないと思うんです。
僕は今まで、こういう大事な縁とか思い出とかを
無視して生きてきたような気がします」
佳子「そうなの」
僕 「はい。世の中は、地層のような積み重ね、なんだって思いました。
スマホは確かにその一番上の目立つ層で存在感を発揮しているけど、
それより下にある、縁や思い出が、まさに縁の下の力持ちになって、
今の自分や世の中を支えてくれている。ずっと黙りながらですけど。
そんな構造に、僕は今回始めて気づきました」
佳子「そうね。縁、大事ね」
すると、車内販売が近づいてきた。
販売員の女性がワゴンを押してきた。
佳子「すみません、オレンジジュース2つ」
あ、また佳子さんがオレンジジュースを頼んでくれた。
佳子「せっかくのご縁ですので、
石井さんの分も注文させていただきました。」
1回目の往路と、同じ台詞を言ってくれた。このご縁、いいご縁ですか。
僕はよほど聞きたくなった。
しかし、佳子さんは、まったく別の話題に切り換えた。
佳子「ワンコちゃん、実はね」
僕 「はい」
佳子さんは、ちらりと僕を見て、言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます