第86話

僕 「もしもし」

佳子「はい。もしもし」

僕 「あの、石井です」

佳子「あら、ワンコちゃん」



峠の上でもないのに、ワンコちゃんと呼ばれた。



僕 「あの、今回は本当にお世話になりました。

   ありがとうございました」

佳子「ううん、大変だったね」

僕 「いえ、僕は全然ですけど、

   みわちゃんは、ずいぶん大変だったと思います。

   お父さんも捕まってしまったし」

佳子「あら、あんなにだまされていたのに、

   ワンコちゃん、ずいぶんやさしいのね」

僕 「いえ、だって、だまされていたのは

   僕にも原因があって、ちゃんとみわちゃんの話を聞かずに

   めんどくさいって思って、日々過ごしていたからだと思います」

佳子「そうなの?」

僕 「はい。僕、大人になってから、

   めんどくさいことを避けてきたんです。

   それを今回、思い知りました」

佳子「そうそう。面倒くさいを避けても、

   結局はもっと面倒なことになるからね。

   でも今回は本当におつかれさま」

僕 「はい。ありがとうございました。お世話になりました。

   失礼しました--」



僕がそう言って電話を切ろうとすると、佳子さんが遮った。



佳子「ちょっと、待って」

僕 「…何ですか?」



佳子さんは、一息ついてから言った。

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