第85話

数日後にわかったのだが、一身上の都合で退職した、という。


また、僕の家には引っ越し屋が訪ねてきた。

指定されたものを、引き取りたいという。


僕は指定に従い、

ダンボールにみわちゃんの服や化粧品を一日かけて詰め、送り返した。

ダンボールは10箱にもなった。


ちなみに僕は、よほど社長や副社長、

つまり実の父や兄を訪ねていこうかと思ったけれど、やめた。

だって、今行ったら、単に迷惑のような気がしたからだ。


それにいつか、時期が来たら、会えるのだろう。

あわてる必要はないし、会うべき時期というのが、きっと来るはずだ。

僕と佳子さんのように。


ちなみに、人づてに聞いたところ、社長の奥さん、つまり

僕の実の母親は、十数年前に亡くなったと言う。


さらに人づてに、社長の家の墓所はどこか尋ねた。

墓所は案外簡単にわかった。

海の近くの、潮風の薫る町にあるという。

今度の彼岸には、そっと墓参りに行きたい。






再び、僕は腑抜けの日々を送ることになった。


ただ、佳子さんには一言お礼がしたいと思い、

みわちゃんのダンボールを送り返して、

部屋にみわちゃんのものがなくなった日に、電話をかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る