第63話

僕 「すみません。

   実は、箱根の峠の上にいて、電波が届きにくかったんだよ」

  「でも、箱根を降りたら、そのことの説明も含めて、

   すぐ連絡しないといけなかったね。すみません」


実際には、峠の上でも携帯の電波は十分届くはずだが、

まさか、佳子さんへの対応に精いっぱいで

連絡するのを忘れていました、とか、

気づいてはいたけど、後回しになっていました、などと言うと、

火に油どころか、火にガソリンを注ぐことになってしまうので、

和平を優先する意味でも、嘘を混ぜた。


するとみわちゃんは、案外簡単に矛を収めた。


みわ「あ、そうなの?うーん、なら、仕方ないかも、なあー」

僕 「いやごめん。帰り道すぐに連絡すべきだった。ごめんね」


僕がそういうと、みわちゃんは少し落ち着いた。


嘘も方便で、これで結果的にはいいのかもしれないが、

僕はあまりいい気分ではなかった。


なんでLINEが来ないことに、そこまで怒るのか。

僕にはよくわからなかった。


送らなかった僕は確かに悪いけど、

無事に帰ってきて、対面できたことに対して、

何も言ってくれないことについて、僕は多少の疑問があった。


みわ「今度から、気をつけてね」

僕 「うん。ごめんね」


僕はそう言って、頭を下げた。


それを見ると、みわちゃんは、

ベランダに通じる窓のところまで歩き、外を見た。



みわ「あのね」

僕 「うん」



みわちゃんは、こちらを向いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る