第22話

なんだか話がずれ始めて来たので、僕は佳子さんに軌道修正を求めた。


僕  「あの、少し話がずれてきたみたいなんですけど、

    そもそも、なんできょう、僕が佳子さんにここに連れ込まれたのか、

    教えてください」


僕は思わず「連れ込まれた」なんて言ってしまった。

まずい、佳子さんはそんなつもりじゃないのに失礼かな、と思った。


佳子 「あは、連れ込み。ここは連れ込み宿ですか」

僕  「あ、すみません」


僕が謝るのを待っていたかのように、佳子さんは少し微笑んだ。


佳子 「実は、じじに彼氏を連れてくるって前から言っていたの」

僕  「連れてくればいいじゃないですか」

佳子 「いないのよ」

僕  「ええ」


また、驚いた。

こんな色白で若くて美しい金持ちプリンセスなのに、彼氏がいない?

本当かと疑った。


僕  「本当ですか」

佳子 「本当」

僕  「なんでいないんですか」

佳子 「『該当者なし』の状態が続いてたの」

僕  「じゃ、おじさんにいないって言えばいいじゃないですか」

佳子 「いないって言ったら、できるまでここに来るなって言われそうで。

    ここの硫黄泉に入れないの、やだから。

    それで急きょ、白羽の矢を石井君に立たせていただきました」



はあ。白羽の矢ですか。

つまり、僕は、都合のいいところにいたから、連れ込まれたというわけか。



ん?

でも、なんで都合のいいところに僕がいたのか?


僕 「あの、それにしても、タイミングよすぎないですか」

佳子「だから、ロマンスカーの中で言ったでしょ。

   お互い何度もここに来ているんだったら、こんなこともあるって」

僕 「それがおかしいんですよ」


さっき、ロマンスカーでこの話をしたときには

「ロマンスカーでロマンス!」と言われて

僕は少し舞い上がってしまったため、これで話が終わってしまったが、

ここは粘るぞ。僕がそう思うと、次に佳子さんが意外なことを言った。


佳子「ま、あたしは石井くんが今日来るの、実は知ってたけどね」

僕 「え?」


僕が来るのを知っていた?佳子さん、予知能力でもあるんですか。

どんな予知能力なんですか。

そんな僕の神秘的になりそうだった疑問は、次の一言であっさり氷解した。


佳子「この前、あたしがここに来たときに、

   宿帳を見たら、今日の日付のところに石井くんの名前があってびっくりしたの。

   ああ、ここに来ているんだなあ、この日に来るんだなあって。

   それであたしも予定をあわせて来たわけ」

僕 「え、宿帳見ているんですか」

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