第21話

佳子 「実は、月に一回くらいここに手伝いに来ているんだけど、

    最近、結婚しろってうるさいのよ」

僕  「そりゃ、まあ、佳子さんみたいな人が一人でいたら、

    みんな心配するんじゃないですか」

佳子 「よけいな心配よ。あたしは面倒なだけ。」

僕  「そうなんですか」

佳子 「そう」

僕  「でも肉親だったら、みんな心配するんじゃないですか」

佳子 「そうかなあ。だってパパは死ぬまで心配してなかったもん」


そこで僕は初めて、佳子さんのお父さんが亡くなっていることを知った。


僕  「お父さん、亡くなられたんですか」

佳子 「うん、少し前にね」

僕  「それで」

佳子 「あたしの弟は、大観光なんて継ぐつもりないから、

    とりあえず、じじ、あの、おじさんが継いだんだけど、

    じじだってもう年だから、早く誰かに継ぎたいんだって」

僕  「はあ」

佳子 「で、あたしに継げと言ったわけよ」

僕  「継げばいいんじゃないですか」

佳子 「そんな面倒くさいじゃない。

    あたしは気楽に踊っている方が好きなの」

僕  「えー、でもここを継げば将来安泰なんじゃないですか」


僕は気軽に「安泰」と言ってしまった。

すると、佳子さんは眉毛の角度をわずかに上げた。


佳子 「安泰って、何。」

僕  「えっと、だから、お金に不自由なく、暮らせて」

佳子 「お金があればいいの?」

僕  「もちろん、お金だけだと足りません」

佳子 「お金なんて、生きる分と、多少の蓄えがあればいいんじゃない。

    多ければ多いほど、絶対にいざこざの元になるわ。

    みんなお金のことばかり。みんな自分のことばかり。

    一体なんなのよねえ」


そう言うと、佳子さんは、ため息をついた。


佳子 「お金より大事なものが、あるじゃない。たくさん」

僕  「例えば、何ですか」

佳子 「いまのあたしは、踊って誰かを勇気付けること。

    勇気や元気は、お金じゃ買えないものだから、

    あたしはとっても大事だと思っているの。

    あとは」

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