第13話

ひとつ前の窓側の席には、寝息を立てて窓に寄り添うように寝ている

サングラス姿で、淡い瑠璃色のワンピースを着た、色白の女性がいた。


サングラスはかけているけれど、

明らかに、明らかに、どう見ても、

あの、これって冗談ですよねと自分に問いかけなければならないくらい

明らかな姿が、そこにあった。



あの、佳子さんだった。



あの、あの、なぜ、ここにいらっしゃるのですか。


僕にはそれくらいしか頭に言葉が浮かばなかった。

楽しかったはずの箱根旅行は、

一気に緊張感満載旅行に変わってしまった。


アウェー感あふれる車内で、緊張感も満載かよ!


僕は、珍しく、大好きなロマンスカーをうらんでしまった。



普通、好きだった女性がいたり、偶然再会した人がいたりすると、

喜びにあふれるものではないかと思う。


しかし、このときの僕には緊張感しかなかった。


この前、代々木で佳子さんに再会したときは、

緊張感はたしかにあったものの、

「かわいい」とか「変わらない」とか感激していたのに、

なんでこんなに緊張感ばかりになってしまったのだろう。



僕は、また自分がわからなくなっていた。



もう、降りた方がいいのかも。ちょっと苦しいよ。

ロマンスカーは、次、町田に止まるはずだし。



だいぶ長い時間が経って、ロマンスカーは町田に到着した。

佳子さんは、寝息を立ててままだ。



僕は意を決して立ち上がろうとしたところ、

ひざ掛け代わりにしていた自分の黒いダウンの袖を思い切り踏んでしまい、

その場に転びそうになってしまった。


「あっ」


少し大きな声を出してしまった。


その瞬間、佳子さんが、目を覚ました。

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