第11話

石井さんと呼ばれたのも、

久しぶりだった。

そして、

話してないことがあるという言葉が

僕の胸に刺さってきた。



みわ 

「あたし、結婚していたことが

あるんだよね」



は?


今、なんていった?

みわちゃん、そんな話聞いていないよ。


つきあって1年3か月も経つのに、

聞いていないよ。

なんでそんな大事な話、

黙っていたんだよ。


僕はよほどその言葉を

口にしようとしたが、面倒なので、

飲み込んだ。


代わりに、最初に頭に浮かんだ言葉を、

言った。


僕  「今、なんていった?」

みわ 「だから、結婚していたことがあるん

だよねって、言ったの」

僕  「・・・そうなんだ」

みわ 「そう」


僕は次の質問をどうしようか、迷った。

でも、定番のような質問を、した。



僕  「どんな人と、結婚していたの?」

みわ 「高校時代の後輩」

僕  「え、年下?」

みわ 「そう。1学年下。」

僕  「みわちゃんって、

年上好きだとばかり思ってたよ」

みわ 「その1学年下の人と別れたから、

年下NGになったの」

僕  「そうなんだ」

僕  「いつごろ結婚していたの?」

みわ 「3年前まで」

僕  「え、じゃあ結婚したのは?」

みわ 「7年前」

僕  「じゃあ、20代で結婚して、

20代で離婚したってこと?」

みわ 「そう」

僕  「・・・なんで別れたの」

みわ 「向こうが浮気したの。

10歳も年上の女とね」



僕には、みわちゃんに

そんな波乱万丈の歴史があったなんて、

まったく想像していなかった。



僕  「でも、なんで

急に話そうと思ったの?」

みわ 「石井さんが、

高校時代の先輩と会っていたって

聞いて、

    言わざるを得なくなったなって、

思ったの」


そうか。

みわちゃんは、自分の歴史と重ね合わせて、

僕が似たような状況になっているのを見て、秘密を明かすトリガーを

引いてしまったのか。



みわ  「ごめんね」

僕   「いや、そんな」


それから、しばらく沈黙が流れた。


みわ  「じゃ、もうきょうは寝るね。

おやすみ」


そういって、みわちゃんは立ち上がり、

寝室に消えた。




それからというものの、

僕とみわちゃんの間には

微妙な空気が流れた。


みわちゃんは、佳子さんのことを

それ以上聞いてこなかった。


でも、それがかえって恐かった。

ああ、もう佳子さんのことは忘れよう。

そう思っていた。


よかった。佳子さんに連絡先聞かないで。

そのときは、そう思っていた。



しかし、僕の思いとは別のところで、

話は進行していた。

僕の運命は、ゆっくりと近づいた彗星に、

もう、飲み込まれるところだった。



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