第3話「メイドの憂鬱」
「お、お嬢様!? やめてくださいぃぃ!!」
壁に向かって全力タックルを繰り返すガウナと、それを羽交締めにしてとめるモニカ。
「ちょっと、邪魔をしないで。今いいところなの」
「ぜ、全然良くないですぅぅぅ!」
まさか階段から転落したショックで気でも狂ったんじゃないかとパニックに陥るモニカであったが、なんとかガウナを止める事に成功する。
「どうしたんですか!? 何が不満なんですか!? 人生に疲れたんですか!?」
「別に自傷行為で壁に向かって体当りしてる訳ではないわよ。いいから離してくれない?」
背後からガッチリとホールドされていたガウナは解放されるとモニカと向き合う。
「私はね、ただ。そう、ただ世界の真理(バグ)を見たいだけなの」
この時、モニカの感想は
(なに言ってんだコイツ)
である。
「なに言ってんだコイツ」
「出てるわよ、口にも顔にも」
「お医者様を呼んできますね」
「貴女、普段オドオドしてるけどテンパるとクソ失礼なのね」
ガウナはカクカクと動きながら部屋を出ようとする処理落ちメイドを引き止める。
「いい? 私の部屋、あそこにタンスが二つ並んでいるわよね?」
ガウナが指差す先にはモニカの腰ぐらいの背の低い引き出し式タンスが二つ並べて置いてある。
「ありますね、それが?」
「あのタンスとタンスの隙間、気にならないかしら?」
ガウナの言うとおり、タンスの間には微妙な隙間があった。
決してピタッとくっついて置いてある訳でもなく、人が一人入れる訳でもない、微妙な隙間。
「は、はぁ……」
「アレ、絶対に物理演算が荒ぶるポイントよ」
「はぁ?」
「まぁ、見てなさい」
言うやガウナはタンスとタンスの隙間に向かって走り出した。
そして、タンスの隙間に突っ込むかという瞬間。
「ここっ!!」
カッと目を見開き、叫んだ瞬間。
ガぃンッ!
っという音と共に高速で後ろ斜め上に飛んでいた。
モニカがぽかんと見ているなか、後向きに飛び上がったガウナは天井に後頭部を強打し、うつ伏せの格好で床に着地した。
ビッターン!
と言う音と共に。
「ど、どう? これが物理演算系バグというものよ」
「お、お嬢様? 鼻から血が……」
「流石は現実化した世界……。体力ゲージがごっそり持っていかれたわ」
ガウナはモゾモゾと起き上がる。
「確か体力回復は……。R1 R2 L1 〇 左から反時計回りに二回転……」
「あ、あの、動くとお身体にs」
モニカが恐る恐る話しかける間にも、ガウナは奇妙な動きで動き回る、そして。
ティン!
<体力回復チート>
これまた奇妙な効果音と視界の端に写るモニカには見た事のない文字。
「チートコードの入力も問題ないみたいね」
そこにはつい先ほどまで後頭部に大きなたんこぶを作り、鼻血を流しながらフラフラ立つていたガウナはおらず、元気そのものなガウナが立っていた。
心なしか顔色も良い。
「な、ななな、何ですか今の!?」
「だから物理演算バグと体力回復チートだってば。あ、ちなみにチートコードはP〇2版もPC版の大丈夫みたいね」
「訳が分かりません! とゆうか、訳が分かりません!!」
大事な事なので二回言った。
「二回も言わなくたって聞こえてるわよ。いいかしら? 世界のルール的に起こってはいけない現象が発生する事があるわ、その|切っ掛け≪トリガー≫を発見するのがデバッカーの役割りであり醍醐味なの。ちなみにお仕事としてやってる人は大変な苦労らしいけど、私は完全に趣味でやってるわ」
「そ、それでいきなり空中に飛び上がったり、怪我が一瞬で回復したりするんですか!?」
「壁にめり込んだり、座ったまま移動したりもするわよ?」
あまりにぶっ飛んだ切り返しにモニカも唖然として口が開きっぱなしである。
それはとても年頃の少女のする表示ではない。
「そんな顔をしないで欲しいわね。仕方ない、もう一度だけ証拠を見せてあげようかしら」
そう言うやガウナはまたも壁に向かって走り出したのだった。
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