第百一話【びっくり、決着です】
「うーん。デュクスブルクの兵士達も弱かったけれど、復興盗賊団の人たちも弱くないかしら?」
「いえ、かなりの強兵だと思います」
私のこぼした疑問に答えてくれたのは、護衛として一緒に行動している、エルフ騎士のリンファさんだ。
流石に今日は慣れたのか、もうどもったりしないわ。
明日になったらまたどもるのでしょうけど。
「そう? その割りに凄く簡単に崩れているけれど?」
「それは……なんと説明してよいのか」
困った表情を浮かべるエルフ美人さんも良いわね。
そんなこと考えてる場合じゃ無いわね。
私の周りにいるのは、ブルー、リンファさん、プラッツ君にレイムさん。あとグリーンね。
今日は珍しくグリーンはメイド服よ。
防御力がありますからね。
グリーンが鍬を「え〜い」と振るう度に、敵兵がなぎ倒されていくの。
やっぱり、弱すぎない?
最前線を走っているのはレッドね。
もう魔法を使わないとちゃんと見えないけれど。
その後方を、ティグレさん、オレンジ、ダーク、ミケさんが続いているわ。
レッドが取りこぼした敵を、ティグレさんとミケさんで次から次へと気絶させて、ダークとオレンジが猛スピードで縛り上げていくわ。
その辺に転がしておくのはちょっと怖いけれど、戦闘が終わるまでは我慢しててね?
つまり、レッドが敵陣を蹴散らして、ティグレさんたちが無力化して、私たちがゆっくり安全に進んでいる感じね。
途中から合流した冒険者さんたちが、左右に散った敵を押さえに行ってるわ。
可能な限り死者を出さないでとお願いしたら「わかっています!」と、なぜか喜んで承諾してもらえたわ。
自分の命が最優先ですからね?
統率を失って、かつ分断された戦力は、冒険者にとって格好の的よ。
冒険者の大半は個々戦闘力は高いけれど、統率されてないですからね。
逆に同じ乱戦であれば、どちらに分があるかは言うまでも無いわね。
「……と、だいたいこんな感じよ、プラッツ君」
「こんな時まで授業かよ」
「あはは……」
すでに魔力の盾を出す必要も無くなってしまったので、歩きながら講義よ。
本当の事をいうと、何かしてないと、たまに見つかる死体に気持ちが行ってしまうのよね。
「ミレーヌ陛下、レッド殿が敵主力と接敵したようです」
「リンファさん。私はただの冒険者よ?」
「しゅ! しゅみまちぇん! ミレーヌお嬢ちゃま!」
噛みすぎよ、さすがに。
「ちょっと使い魔で確認するから、守ってね」
「おう! 任せておけ!」
「はい!」
「命に替えて」
「替えないでね?」
敵が有機的にレッドに襲いかかっているわ。
10人くらいずつの小隊が、間断なく襲いかかっていてやりにくそうね。
うん。試してみようかしら。
「ちょっとオリジナルの魔術を使うわね」
「オリジナルだって!?」
「え? 何か変な事言ったかしら?」
「言ってるだろ! 本当にミレーヌは規格外だな!」
「うーん。基礎が出来てれば、そんな難しくないわよ?」
「お、俺でも作ったり出来るのか?」
「もちろん。でも今はこっちね」
私は珍しく、魔法のロッドを手にしているわ。
贅沢に高品質魔核を大量に凝縮して作り出したクリスタルロッドよ。
これ、昔だったら国宝級ね。
とにかく使用している魔核の量が桁違いですからね。
ゆっくりと空気中の魔力を吸収して満タンになるのだけれど……。
うん。まさかここまで魔力が溜められるとわねー。
「さて、行くわよ。
敵数百全ての足下に魔方陣が一気に広がったわ。
そして魔方陣内の地面、いたるところから、光の蔓が大量に現れて、地上で動くもの全てに巻き付いた。
弱い敵にはそれなりに、強い敵には大量に複雑に自動で巻き付く魔力の蔓よ。
どうしてこんな便利な魔法が昔に無かったかというと、単純に敵の広域魔法を防ぐ魔法が発達してたからよ。
呑気に地面に魔力を流し込んで、魔方陣なんて書けないわ。
「どわー!」
「なんだこりゃー!」
「うわー! 魔導師だぁあ!」
「卑怯者めぇ! 正々堂々と戦えぇ!」
敵兵はパニックね。当たり前だけれど。
それと、私はただの魔導士よ?
そういえば、この時代はその辺の区別が曖昧なんでしたっけ。
あと、戦争に正々堂々もないでしょう。
「あー、ミレーヌ様よ……」
「ん?」
すぐ側から、レッドの声が聞こえたわ。
どうしたのかしら?
「そろそろ俺を開放してくれないかな?」
「あ」
そこには、大量の蔓で身体中をぐるんぐるんにされたレッドがいたわ。
なんかちょっとエッチね。
「ごめんね」
私は軽く手を叩くと、レッドが開放されたわ。
「ふう。びっくりしたよ」
「ごめんね。新魔術が使えそうだったから、ロッドと一緒にテストしちゃったわ」
「いやー。流石ミレーヌ様だな!」
うん。魔石も使ってないのに凄かったわね。
あとで魔力を充填しておかないといけないわね。
それにしても……。
ティグレさんが頭を掻きながらやってきたわ。
「あっけなかったな」
それね。
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