第百話【びっくり、最終決戦です】
「大将、応援要請だ」
私、ウンゲドゥル・ネーベルに近寄ってきたのは、腹心バッハフントが育てたエリート指揮官だった。
「どうした? まさか押されてるのか?」
「いえ、逆です。敵の防衛圧力が弱まったので、攻め手を一カ所増やして、一気に押し切りたいとの進言です」
「ふむ。順調だな。現在3方向から攻めているわけだが、もう一カ所増やして、敵の防衛戦力を分散させるのか」
「はい。こちらの前線も、もう崩れる心配は無いので、予備戦力を投入して欲しいとの事です」
俺は満足して頷いた。
それにしても、予定より大分早い。
敵兵力を引きつけるのが主任務だった、正面門部隊が、攻勢を続けているというのは、いったいどれほど脆弱だというのだ。
「まったく。これなら例の城壁が崩れるのを待つ事は無かったな」
スラム街となっていた地区の城壁が自然倒壊しそうだったので、毎夜、闇に紛れてその速度を上げていたのだ。
そしてようやく十分な崩壊を確認したので、各地に散っていた部下、野盗たちをかき集めていたら……、城門が出来ていた。意味がわからない。
これまで完全放置だったが、今さらこの街にテコ入れとは運が無かった。
この帝国の皇帝は魔導師だ。恐らく人類最強の魔導師だろう。
長い寿命のおかげで、子供が数え切れないほどいる。
そしてその何割かは、同じく優秀な魔導師だという。
今回派遣されてきた女魔導師もその一人だろう。
まったくタイミングの悪い事に、王族の実績作りとかち合ってしまったのだ。
返す返すも、ふた月早く行動するべきだった。
「ふん。今さらだな。よし、バッハフント隊が戻り次第、我が隊と合流し、城攻めに参加しよう」
「はっ!」
なに、奴の事だ半刻もしないで、敵の増援を殲滅させてくるだろう。
相手は冒険者なので、若干の被害は覚悟しておくべきかもしれんな。
その直後の事だ。
バッハフントを送った方向から、ばらばらと、兵士達が走ってくるのだ。
一瞬、敵前逃亡を考えたが、どうも様子が変だ。
「おい! 誰でもいい! あいつらを連れてこい!」
「はっ!」
すぐに部下がすっ飛んで行き、汗だくの兵士を連れてきた。
「あああ……ウンゲドゥル様……」
「お前、バッハフントが指揮していた隊の者だろう? 何があった?」
「そ……それが……」
全身汗びっしょり、表情も恐怖に彩られていた。
「ふん。水だ。飲め」
「は、はい……」
がぶがぶと水を飲み込むと、ようやく少し落ち着いたのか、わずかに目に光が戻る。
「何があった?」
「その、敵が強くて、味方は総崩れ、さらに……バッハフント様が……」
「何? バッハフントがどうした? まさか怪我でもしたのか?」
それで指揮が執れなくなった?
「いえ……敵に……敵に捕らえられました」
「何だと!? あのバッハフントが?」
それでは逃げ出す者が出ても仕方ない。
だが、それを良しとするわけにもいかない。
「よしお前! 新たに部隊指揮官に任命する! 今すぐ部隊を統率! 敵の侵攻を押さえろ! 可能ならばバッハフントの救出を……」
「ちっ! 違うのです!」
俺が側近に指示を飛ばしていると、逃亡兵士が泣きそうなツラで叫んだ。
「ぶ……部隊はすでに半壊! 現在片端から敵に捕らえられているのです!」
「……何?」
「やつらは……奴らは化け物です!!!」
そいつの魂の叫びと同時に、別の側近叫んだ。
「敵です! 新門側から敵の集団です!」
俺は慌てて馬の背に立ち上がる。
土煙を上げて、全力疾走してくる人影が一つ。その後ろに数人。さらに後ろに小集団。そのうしろに100程の冒険者集団!
先頭のあれは、間違い無い。俺を軽くあしらった赤いメイドだ!
まさかと思うが、王族一行が戦闘に参加しているのか?
女風情が!
「俺が直接指揮を執る! 後詰めの全てと、城攻めから一隊回せ!」
「あれは農場攻めの時の悪鬼! わかりました! すぐに!」
恐らく、功を焦った女の王族が、虎の子の護衛を送り込んで来た。そんなところだろう。
なるほど、人外の強さを持っているのは認めよう。
だが、所詮人だ。
数で波状攻撃すれば、すぐに疲労する。
人間というのは、全力を出し続けられるようには出来ていないのだ。
全力で突出してくる馬鹿など、敵では無い。それにバッハフントとやりあっているはずだ。間違い無く疲労している。
「あの化け物を潰したら、すぐに残りを片付けて、バッハフントを救出するぞ!」
「はっ!」
「いいか! 油断するな! あの赤いのは帝国の虎の子だと認識しろ!」」
「わかってまさぁ! 若の剣を軽々と弾くような化け物相手に油断なんてしませんて!」
「若はやめろ!」
「ははは! 了解しました! 若!」
「貴様! 後で覚えていろ!」
「了解です!」
軽口を叩く事で、兵士の緊張を和らげるその手腕は、なるほどバッハフントが育てただけのことはある。
「いいか! いっぺんに当たりすぎるな! 小隊で波状攻撃するんだ! 手を止めるな! 無理をする必要は無い! 一撃加えたらすぐに離脱!」
「「「はっ!!!」」」
こうして、メイドVS新生ネーベル王国軍との戦いが始まった。
……そのつもりだった。
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