第九十八話【びっくり、名案です】
「ふうむ。国際問題を避けつつ、参戦できる方法ねぇ」
「別に参戦しなくても良いのよ? 戦争が止められるのであれば」
「政治的根回しで、戦闘を避けるには、時間がなさ過ぎる。敵は目の前なんだぞ?」
「そうなのよねぇ」
私は嘆息を天に吐いたわ。
詳細は不明だけれども、昔に滅んでしまった王家の血筋が、復興の為に盗賊をしていたって……気持ちはわからないでも無いけれど、王族なんて公共事業の親玉みたいな仕事、なんで進んでやりたいのかしら?
住民サービス大変なのよ!
個人的には芸術関係の仕事をしたいんですけど、少なくとも作り手側にはなれなそう。
その……私の前衛芸術が認められる日は無さそうなの。ぐすん。
一度、ミレーヌ神聖王国の芸術家や評論家を集めて(王国にはそういう職業の人たちが沢山増えてるの!)私の絵画を見てもらった時の事よ。
「なんでしょう? この落書きは?」
「あれですか? 下手すぎる絵を取り締まる基準を作るお手伝いとかでしょうか?」
「それにしても……」
「ええ」
「これは酷い」
予備知識無しで見てもらった反応がこれよ。
ブルー! お盆は! お盆はダメよ!
どす黒いオーラを背負ってお客様を笑顔で睨み付けるブルーを、慌てて押さえたわ。
「それは、ミレーヌ様の、作品で、ございます」
怒りを抑えきれないのか、言葉の端々に殺気が載っていたわ。
私にわかるレベルって相当よ!
「ほぎゃ!?」
「い! いやよく見れば、前衛芸術と言えなくもない輝きがあるようなないような……!」
「そ……そうですね! なんというか、人類にはまだ早すぎると言うべきか何というか……」
「いや、酷いだろ、これは」
「押さえろ!」
「おう!」
「うわなにをするくぁwせdrftgyふじこlp」
「ええい、これだから若いだけの芸術馬鹿は!」
「と、とにかくその……ええと」
「そ、そうです! ミレーヌ様は余人に代えがたき鑑識眼がありますゆえ!」
「その通り! ミレーヌ様が芸術の守護女神である事に疑いはなく……!」
「しかり! しかり!」
なんだかんだの末、全員一致で、私にはこれからも、芸術判定の指導をお願いしますという、よくわからない懇願で終わったわ。
くすん。
「彼らは万死に値しますが、言っている事に間違いはありませんね」
悲しくなるわ! ブルー!
……。
話が逸れちゃったわね。この時は悲しい事件になってしまったけれど、美術館の設立や、コンサートの手続き。
私はそういった仕事をして生きていきたいわ。
え? やってるのはメイドだろうって?
いやねぇ。そんなの当たり前じゃない。
とにかく、王様なんてなっても、学校の敷設、上下水道の設置、税金の割り振り、苦情陳情処理、流民の住宅、食糧の流通貯蔵……。仕事の大半はティグレさんに投げているのに、それでもやる事てんこ盛りなのよ?
一体何が楽しくて、国の経営なんてやりたいのかしら?
私だって辞められるのならやめたいわ。くすん。
「手を出さないっていう選択肢があるぞ」
「それも考えたのだけれど、ティグレさんは、この町の防衛軍で守れると思いますか?」
「厳しいだろうな。兵の士気、練度もそうだが、前回の対応を見る限り、運用も期待出来ねぇ」
「つまり?」
「防衛軍の3倍どころか3割の兵力に落とされかねん」
「ですよねぇ」
元が小城での防衛戦だというのに、ちっとも安心感が無いわ。
「帝国の援軍は」
「申請してないようでござる」
「でしょうねぇ」
きっとこの町のお偉いさんは、軽く撃退出来ると考えているでしょうね。
「ダメね。静観という選択は無いわ」
「だな。いっそ、ミレーヌ女王として参入してみたらどうだ?」
「デメリットの方が大きいわよ」
内政干渉にもほどがあるわ。
「そうなると、やはり、傭兵や冒険者に頑張ってもらうしかないな」
「私の私兵っぽく無いかしら?」
「商人が護衛を雇うのは普通の事だろ? 規模的に、拡大解釈な部分はあるがな」
「なるほど。あくまで農園の護衛だって押し通すのね」
「そうだ」
「でも、離れたイソボン農場の方は許可をもらいましたけれど、すぐそとのグリーン農場からは、護衛を引き上げるように言われているのよね?」
「ああ、だが、防衛隊が突破されたら、それどころじゃ無いだろうからな。グリーン農場へ送るつもりだったと言えば、どうとでもなる」
「そうね」
「ミレーヌ。前も言ったが、俺は今回、手を出さない選択肢を薦めるぜ?」
「内政干渉ですものね」
「そうだ」
「……なんとか回避する方法は無いかしら?」
「傭兵と、冒険者を送り込むのが限界だろう」
「そうよね……。ん?」
農夫に紛れて待機してもらっている多数の冒険者に視線をやって、ぴこーんと閃いたわ!
「そうだわ! 私たちが冒険者になればいいのよ!」
「……は?」
うん! 名案よ!
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