第九十六話【びっくり、城攻めです】
地平線に朝日が昇ったのを合図に、ウンゲドゥルたちはデュクスブルクに向かって進軍を開始した。
最終的な兵力は1200。
各地でバラバラに野盗として活動していた全ての仲間をかき集めたのだ。
「……ふん。平和ボケして城門を閉めないことを期待したんだがな」
「なぜか今朝は商人が少なかったですからな。その分迅速に動けてしまったのでしょうよ」
「まあいい。商人の馬車が無いのなら、それはそれでやりやすい。攻城用の破砕槌は用意出来ているな?」
「もちろんです」
「よし! 敵の防衛が揃う前に城門に取りつくぞ!」
「お待ちください! 西門前の農場を警護していた正規兵が来ます!」
「数は!?」
「約200!」
「バッハフント! 150やる! 蹴散らしてこい!」
「は!」
腹心である老兵バッハフントは、見事な指揮で150の兵力を率いると、新兵だらけの正規兵を10分もせずに蹴散らした。
「脆い! なんという脆さだ! 被害は!?」
「数名怪我をした程度です!」
「負傷者は下がらせて治療! 残りは正門に戻って城攻めだ! 登れ登れ! 最初に城壁を登り切った奴には報償だぞ!」
「「「うをををを!!」」」
大量のハシゴが同時に壁に立てかけられ、城門には破砕槌が何度も打ち付けられる。
それはまさに戦争だった。
いくつもの骸が転がり、血で大地が染まっていくのだ。
「城門は突破できるか!?」
「もう少しです!」
「西門より敵が出てきました! 数は約100!!」
「何? この状況からの逐次投入だと? ここの領主はよほどの馬鹿なのか?」
「それが、敵の装備から、出てきたのは雇われの兵。傭兵か冒険者だと推察されます!」
「馬鹿が! こと防衛戦において、統率されてない兵を遊撃に出したのか!?」
「そうとしか言いようが……」
「わかった。バッハフントに連絡! 後詰めの300で蹴散らしてこい! 戦闘力だけならさっきの正規兵よりよほど手強い! 油断するなと伝えろ!」
「はっ!」
「冒険者どもか……ちと手こずるかもしれんが、バッハフントなら問題なかろう」
ウンゲドゥルはそう頷いた。連絡を受けたバッハフントも同じ様に考えていた。
300の歩兵をすぐさに集めると、短時間で西門から飛び出して来た冒険者一団に向かって進撃。
「隊を2つに分けろ! 正面から受け止めるな! 左右から崩せば十分だ!」
個人戦闘力がいくら高かろうと、所詮は冒険者だ。正面からやり合ったら戦力を削られるが、こちらは軍隊なのだ。作戦で崩してやれば良い。
もっとも戦闘力の面でも、こちらは相当に高いとは思うが、無理することは無い。堅実に確実にこなせばいい。
王国の復興……。
これが成功すれば、再び元小国家群では新たな独立宣言ラッシュが始まるだろう。軍縮している今だからこそ可能なのだ。
時期がこれ以上先になれば、少数でも効率的に動ける軍が編制されてしまうかも知れない。
どのみちどこかで無理はしなければならないのだ。ならば今動かないでどうするというのか。
バッハフントは指揮する立場から、後方より檄を飛ばしていたが、本心ではあの先頭に立って突っ込みたかった。
お家再興の悲願が目の前なのだ。興奮するなと言う方が無理な話だ。
「……なんだ?」
味方の後方にいるバッハフントは馬に乗ってはいるが、なかなか戦端を見通すことが出来ない。丘一つ無い平地なのだ。
最前線の様子がおかしい。怒声というよりは、悲鳴が広がっているように感じたからだ。
先ほどの、新兵ばかりの正規兵なら敵の声だろうと予想するも、その悲鳴はどんどんこちらに近づいていたのだ。
野盗として数々の実戦をこなしてきたのだ、並みの古参兵並みの練度がある野盗団が上げる悲鳴では無い。
視界の端で、人間が空に舞い上がった。
味方だった。
気がついたときには、次々と空に人間が跳ね上がっていく。
それはつまり、敵が真っ直ぐにバッハフントに向かっている事を意味していた。
「なっ!? なに!?」
「おっと、あんたがここ大将?」
バッハフントの目の前に現れたのは、メイドだった。
赤い髪のメイドであった。
「やはり貴様か!」
予想はついていた。兵士を真っ直ぐにかき分けて進めるような人物、前回ウンゲドゥルの剣を軽く弾いて叩っ切って見せたこの謎のメイドくらいのものだろう。
「こいつの相手は私がする! 貴様らは残りを潰せ!」
「はっ!」
統率の取れた野盗団は、命令通りあっさりとバッハフントを置き去りにして、突撃を再開した。
「……ふーん? 戦争のやり方をよくわかってるじゃん」
「もとよりこの老兵の命なぞ惜しむつもりもない! 貴殿がいかに強大な力を所有していようと、数の暴力には敵わないだろう!」
「そりゃあそうだ。一人だったらな」
「ふん! 冒険者風情をかき集めたところで我ら正当なる、ネーベル王国軍には敵わんぞ!」
「お、とうとう身の上をばらしたな」
「今さら隠し立ての意味もない! この老骨と引き換えになんとしても貴様を討つ!」
「そりゃあ無理だ」
「やって見なければわかるまい!」
バッハフントは油断無く、赤いメイドと差し違える覚悟で、馬を全力で走らせた。
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