第九十四話【みんなで、発展です】


 デュクスブルクには当然責任者がいるはずなのだけれど、私はまだ一度もお会いしていないわ。

 だってシュトラウスさんが全部交渉してくれるのですもの。一度確認がてら挨拶に行こうととも思ったんだけれど、それはそれでシュトラウスさんの面目を潰してしまいそうなのよね。


 そして名前しか知らないデュクスブルクの責任者より、好意で名付けられたオレンジ門と、その外に広がる実験農場グリーン農場。

 今、そのグリーン農場の周辺には、デュクスブルクから派遣された兵士たちが見廻りをしてくれていたわ。


「不味いな……」

「やっぱり、足りないですか?」

「ああ。兵力も少ないし、分散してる。個々の力量も野盗より下だ。若い奴ばかりだから気になって探りを入れたら、戦争で働き盛りの兵士はほとんど死んでるそうだ」

「そう言えば、農場で働いている人も、年嵩の人か、かなり若い人が多いわよね」

「それでも帝国がこの辺りを統一してからは、だいぶマシにはなったらしいんだがな。そもそもその戦争で働き盛りが激減してるんだから、納得出来る話じゃないんだろうが……」

「なんで戦争なんてしたのかしらねぇ」

「この辺りに関しちゃ、都市国家が乱立していたらしくてな、このデュクスブルクも一つの国だったらしい」

「あら、そうなの。道理で街の中が要塞クラスだと思ったわ」

「砦だと思っていたが、城だったわけだな。もっともその戦費を捻出するのに、無理な農作物の収穫を繰り返し、土地が痩せたところで、農地が戦場になったんだ。そりゃあ負ける」

「どうして仲良く出来ないのかしら?」

「基本的に隣国同士ってのは仲が悪いから別の国になるからな。そして国が乱立してたって事は、よほど複雑怪奇な関係だったんだろうよ。そういう意味じゃ、帝国が無理をしてでも統一した理由も少しはわかるがな」

「戦争以外の手段が執れなかったのかしら?」

「まぁ……無理だったんだろうな」


 表情を歪めるティグレさん。

 うん。私だって本当はわかってるわよ。それでもやっぱり戦争は嫌いよ。


「話が逸れたな。それよりも派遣されてきた兵士たち、邪魔だな」

「好意なんですけれどね」

「おかげで、こっちで雇った冒険者を配置できねぇんだ」

「どういう事?」

「正規兵がゴロツキと一緒なのかってよ」

「……困ったわね」

「ああ、この間の襲撃を見ていれば、そんなセリフは出てこなかったと思うんだがな」

「そう言えば、あの日って正規兵はどうしてたの?」

「俺たちが撃退したのと、ほぼすれ違いだな。のったらのったら兵士を集合させていたらしい」

「戦場では速度が何より物を言うのに」


 戦争は嫌いだけれど、そういう時代に生きていたから、最低限の知識はあるのよ。私でも。


「ああ。兵は神速を尊ぶ。大抵の兵法書に書いてあるんだがな」

「練度の問題かしら?」

「指揮と士気も問題だな。つまりこいつら装備が良いだけの烏合の衆だぜ」

「まいったわね」

「いざって時、俺たちが手を出すことだけは承諾させたが……」

「城門でも防衛ならともかく、農地を全て少人数で守ることは出来ないわよね」

「レッドの強さは知ってるが無理だな。一斉に火矢でも射かけられたら、正規兵も畑も、確実に被害が出る」

「畑だけならまた耕せば良いけど、兵士さんたちはだめよ」

「……現状打つ手がない」

「大量の冒険者で敵を近づかせないようにしていたのに……」

「取りあえず雇っていた冒険者は全員をイソボン農場に送った。向こうはむしろ過剰戦力だな。念の為、ダークにも張り付いてもらってる。暇な冒険者が畑仕事のバイトをはじめてるくらいだ」

「……それ、大丈夫なの?」

「ごく一部だから大丈夫だ」

「ならいいわ」


 冒険者が畑仕事をしている姿を想像して、ちょっとシュールねとクスリと笑ってしまったわ。


「どのみち……今回は確実に人死にが出るぞ。覚悟しろ」

「……出来ないわよ」

「だろうな。難しいだろうが、何か方法を考えてみる」

「お願いね」

「そうだ、話は変わるんだが、本国からの連絡事項が届いている」

「様子はどう?」

「在野に埋もれていた有能な人材をかき集めたから。問題なく回ってる。順調に発展しているそうだ」

「それは良かったわ」

「特に報告すべき項目は、ベステラティン領が目覚ましい発展をしていることと、紙の取引が想像以上に活発なこと、それと今まで別組織だった各国の冒険者ギルドが、連携することになった事か」

「冒険者ギルドが?」

「ああ。冒険者のランクを統一したり、国をまたいだギルド員の情報共有も始めるらしい。もちろん国ごとに体制は変わるんだが、このままだとミレーヌ神聖王国の冒険者ギルドが総括本部になりそうだ」

「それ、まとまるのかしら?」

「予定表を見る限り、10カ年計画になってる。そのくらいはかかるだろう」

「それじゃあ、今まで国の直轄機関だった冒険者ギルドが、独自の権力を持つわよね。それって大丈夫なの?」

「そもそもミレーヌ神聖王国のギルドは独自組織になってるだろ? 一部民事訴訟関係の特権を与えているが、あくまで委託の形だ。どうも帝国と王国は、経費削減の一つとして目を付けたらしい」

「そうなの。わかったわ、もしギルドの詳細を知りたいと来たのなら、教えてあげるよう、ギルドに頼んでおいて」


 神聖王国の冒険者ギルドに命令権は無いけれど、繋がりは深いので、お願いしておくことはできるわ。

 それを履行するかどうかはギルドの判断よ。


「わかった。本国に伝えておく」


 本当にティグレさんは有能よね。


「す……素敵にゃ」


 なぜかミケさんが壁の向こうから顔だけを覗かせて、ティグレさんを凝視していたわ。

 用事があるなら声を返れば良いのに。


 - 第八章完 -


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