第九十三話【みんなで、仲良くです】
「いやいや全く、大したフロイラインだ」
振り向くと、いつの間にやらシュトラウスが腕を組んで立っていたわ。
「魔術で空を飛ぶだけでも、並みの魔導士出来る事では無いのに、いっぺんに複数人数とは恐れ入る。恐らくお……皇帝陛下クラスの魔導士で無ければ無理だろうな」
「あら、皇帝陛下は
「いや、すまない。集団で飛んだという話は聞いていない。ただ、お……皇帝陛下なら可能かと思ってな」
「なるほど」
世間話的な感じだったのかしら?
「まあ、そんなことはどうでもいいだろう。これからどうするつもりなのだ?」
「どうすると言いますと?」
「そうですね……しばらくは警戒レベルを上げて様子をみるしかないかと」
「ふむ……」
「そうだわ。冒険者を雇って警備に当たってもらいましょう」
「ならばその予算申請はこちらでしておこう!」
「ありがとうございます」
「貴族ならば当然の事だからな! ふははははは!
妙にご機嫌ね。
私はそのまま、城壁内に避難した日雇い農夫たちの所に行ってみたわ。
「おおこれはお嬢さん! 先ほどは助かりました!」
「お姉ちゃんありがとう!」
「空飛んでたよ……いまだに信じられない」
「虎の獣人と猫の獣人に助けられちまった。獣人にも良い奴はいるんだな」
「ちょっと見直したよな」
そんな声が聞こえてきたのだけれど、それに合わせるように、裏路地から薄汚れた獣人の一団が現れたの。
ブルーの警戒心が最大級ね。
でも彼らは一様にみすぼらしく、背中を丸めて、恐る恐るこちらにやって来たのだから、そんなに警戒する事は無いんじゃ無いかしら?
「あの……貴女様は、最近この辺りで活躍している白虎と猫の獣人の主様でしょうか?」
「主というか、そうね、仲間よ」
「仲間? 人間様と獣人が仲間ですか?」
「ええ。仲間だし友達よ?」
「おお……貴方様にならば! お願いです! 私たちも貴女様の下で働かせてもらえんでしょうか! もちろん汚い仕事なども喜んで……」
「ええ。問題無いわよ。あそこの受付に行ってちょうだい。みんなに適した仕事を振り分けてくれるわ」
「いやいや! あそこは人間様の受付でしょう?」
「え? 別にそんな区別は無いわよ? ティグレさん! ちょっと良いかしら?」
「おう! なんだ?」
防衛を含めた陣頭指揮を執っていたティグレさんがすっ飛んできたわ。
「忙しいところごめんなさいね。ねえ、日雇いの窓口って、獣人を受け入れてないのかしら?」
「んなわけねぇ……いや、ちょっと待てよ? 確認してくる」
そう言うと、窓口に一度入ってから戻って来たの。
「危なかったぜ、今まで獣人は一人も来てないらしいが、来たら追い返すつもりだったらしい。現地職員の弊害だな」
「思い込みという奴ね」
「ああ。だが安心してくれ。仕事を失いたくないなら、相手が誰であっても平等に接するよう指導してきた。最初「獣人相手にですかぁ?」とかほざいていやがったから、きっちり指導しておいたぜ。もしお前たちを見て、ちょっとでも嫌な顔をするようなら俺んところへ来い!」
「おお!」
「凄い……獣人が人間様を顎で扱き使っておられる……!」
「い、いや。顎で使ってるつもりは無いんだが」
「白虎様! 我らの希望だ!」
「白虎様素敵!」
「もし良ければ誰か妾にいたしますか? 良いところを見繕いますが」
「いや! 俺に妾はいらん!」
「そう言わず!」
なんか変な流れになってるわね。獣人さんたちにティグレさんが囲まれちゃったわ。
みんな善意で集まってるから、ティグレさんも対処に困ってるわね。
「ティグレ! こっちに来るにゃ!」
「おう? ミケ?」
「仕事が溜まってるにゃ! サボるんじゃ無いにゃ!!」
「お、おうすまねぇ! そんなわけだから、失礼するぜ!」
ここぞとばかりにミケさんの方へ走っていくティグレさん。名残惜しそうにその背中を見つめる獣人さんたちに、ミケさんが、べーっと舌を突き出したわ。
もう、仲良くしなきゃダメよ?
その後獣人さんたちも、仕事に従事するようになったわ。
最初の数日は人間と軋轢も出たようだったけれど、比較的すぐに浸透していったわ。
「まぁ、今まで獣人って言ったら汚くて臭くて浅ましい奴らって思ってたんだが、立派な服装に堂々とした立ち振る舞いのティグレ監督を見てたらなぁ」
「ああ。今までの事は偏見だったって思い知ったよ」
「むしろ俺たちより力が強かったり、すばしっこかったりな」
「お嬢さんが井戸を沢山掘ってくれたから、水が無料で使い放題になったろ? あいつらちゃんと水浴びすれば結構綺麗になるもんだな」
聞き取り調査をしてみたら、こんな感じだったの。
うん。みんな仲良くしてくれたら、私も嬉しいわ。
「おいお前ら! 獣人いじめ何てして見ろ? あのお嬢様の怒りを買うからな! そしたら仕事を辞めさせられるどころか、この街から……いや、この帝国から追い出されるんだぞ!」
……一部誤解も広がっていたようですけれどね。とほほ。
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