第八十九話【みんなで、買い物です】
「アイーシャさん、無事で良かったわ。でも一人で行動しないでね?」
「ごめんなのじゃ」
トラブルはあったみたいだけど、無事に見つかって良かったわ。
それにしても、予想はしていたけれど、やっぱり治安はかなり悪いのね。
「シノブ、情報収集は一旦やめて、これからはみんなの安全確保を重視して。レッドはその補佐ね」
「わかったでござる」
「ミレーヌ様はどうするんだ?」
「私にはブルーがいるもの。大丈夫よ」
「もちろんです。命に代えましてもお守りいたします」
「貴女がいなくなったら、とても困るわ。危ないときはみんなで逃げましょう」
「わかりました」
周囲の警戒はシノブに、万一の戦闘はレッドに。これで万全ね。
「ミレーヌしゃま、大まかな人足の登録が終わりました」
「ごめんなさいねリンファさん。手伝わせてしまって」
「滅相もありません! 誠心誠意お手伝いするようスタイナーより申し付かっておりますにょで!」
「無理はしないでね」
「お心遣いありがとうございます!」
「ねえオレンジ、何から手を付けるのが良いでしょうね?」
「井戸をどこに掘るかによるかなぁ?」
「城壁の内か外って事?」
「ああ。どっちにも水脈は見つけてあるけど、しっかりしたのを掘るなら、外の方が良いと思うんだ」
「理由は?」
「俺が一人で掘っちゃっても良いんだけど、ミレーヌ様の事だから、作業に人足を当てるだろ? そしたら監督だけでいいし、同時に崩れた城壁を直しながら門作りも出来ると思うよ」
「なら、それで行きましょう。グリーンとダークは、外で何が育てられそうか調べてくれる?」
「は~い」
ダークもこくりと頷いたわ。
グリーンだけでも大丈夫だとは思うけれど、戦闘力的にダークが一緒にいてくれるほうが安心だわ。
「それじゃあみんなよろしくね」
「アイーシャはどうするのじゃ?」
「診療所は嫌なのよね?」
「う……」
「なら、一緒に街の視察をしましょうか」
「それは良いアイディアなのじゃ!」
「俺はどうする? 護衛につくか?」
「いえ、ティグレさんにはここの総監督をお願いするわ。グリーンやオレンジの意見をまとめて、人足を取り纏めてちょうだい」
「おう。任された」
「私はどうしゅましょう?」
「ティグレさんのお手伝いか、私たちと一緒に視察か、どちらかね」
「それではご一緒させていただいてよろしいですか?」
「もちろんよ。心強いわ」
「承知いたしゅました!」
こうして、私はブルー、アイーシャさん、リンファさんを連れて街を回ることにしたわ。
ミケさんは診療所のお手伝いね。
折角なので、観光がてら、デュクスブルクの一番賑やかな所へ行ってみましょう。
一度スルーしてしまったのだけれど、一番大きな城門の前にある、露店広場に移動したわ。
恐らく、元は兵士を集合させるスペースね。
「活気があるのか無いのかわからん場所なのじゃ」
「そうねぇ。店の数は多いのだけれど……」
「ミレーヌ様、絶対にお側は離れないようお気を付けください」
露店といえば聞こえは良いのだけれど、そのほとんどはぼろ布で日よけをしているだけの、みすぼらしい店がほとんどだったわ。売っている品物も、あまり質の高いものは無さそうね。
一番賑わっているのは、食料品を扱う露店なのだけれど、小麦などの食材ばかりだったわ。料理した物を出す飲食店はほとんど無かったわね。
買い食いの店がほとんど無い時点で、この街の生活レベルがわかるというものね。
かなり困窮しているのではないかしら?
「こう言ってはなんですが、前線に近い砦や、城下町などは、どこも似たようなものなのですよ。帝国の事はあまりわかりませんが、ガルドラゴン王国ですら、この様な街は多いです」
「なんで戦争なんてするのかしらね?」
「それは……私に述べる資格も言葉も持ち合わせていませんが、一つ言える事があります。この不毛な戦争を終わらせてくれたミレーヌでん……お嬢様には心より感謝しております」
「うん。少しでもお役に立てたのなら良かったわ」
それにしても戦争が終わってもう1年も経つのに、この有様なのね。ミレーヌ神聖王国の発展が著しいから、どうしても比べてしまうわ。
「アイーシャはベステラティン領からあまり出たことはないのじゃが、父上が対帝国の神経を尖らせていた理由がわかった気がしたのじゃ」
「そうね。自分たちの土地をこんな風にはしたくないものね」
並んでいるほとんどの物は、街の外から来た輸入品のようね。
質の悪い混ぜ物入りの小麦に文句を言って、値引き交渉していたりするわ。
そんな中、気になる物を見つけたの。
ザルにもられた丸い豆ね。
「ブルー、これ大豆じゃないかしら?」
「その様ですね。私どもの知っている品種とは少し違うようですが、間違い無く大豆です」
「ねぇ店員さん。この大豆はこの辺りで収穫された物かしら」
「ん? ああ、俺は近所に小さな畑を持っていてな。昔は小麦を育てていたんだが、戦争で畑を焼かれてな……。そんでたまたま手に入ったこの大豆を試行錯誤で育ててんだ。あんたら貴族かい? この辺じゃあ珍しい豆だから買っててくれよ」
私がちらりとブルーに視線をやると、わかってますとばかりに大きく頷いたわ。
「それではこちらの全てを買わせていただきますので、後日畑を見学させてもらませんか?」
「え! 全部!? そ、そりゃあありがてぇが……見学ってのはどういうことだ?」
「私たちはこの土地にあう作物を探しておりまして、ぜひ参考にさせていただきたいのです」
「そりゃあいいが……、その畑を取り上げられたりとかは……」
「安心してください。私たちは貴族でも、この国の者でもありません。詳しい事情は言えませんが、帝国の要請で食糧事情の改善に来た技術集団だとお思い下さい」
「技術集団?」
大豆屋さんは、目の前のブルーを見て、私、アイーシャさん、リンファさんと視線を移して、目を点にしていたわ。
うん。流石の私でもその気持ちはわかるわ。
「こちらのお嬢様は世界最高の魔導士で、今回のまとめ役です。農業担当は別におりますよ」
「ああ、なるほどなぁ。どう見ても貴族のお忍びにしか見えなかったからびっくりしたよ。って魔導士は貴族だろぅ?」
「いえ、国が違えば状況も変わりますから」
「そんなもんかぁ……まぁ事情はわかった。場所は正門の東にあるイソボン農場って所だから、いつでも来てくんなせえ」
「ありがとうございます」
流石ブルーね。
でも世界最高は言いすぎじゃ無いかしら?
とにかくグリーンに素敵なお土産が出来て良かったわ。
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