第九十話【みんなで、改革です】


「今日の昼飯はなんだろうな!?」

「昨日の肉入り野菜スープはうまかったよなぁ!」

「今日の付け合わせはパンかな? 芋かな? 豆かな?」

「俺、大盛りにしてもらって、こっそり子供に分けてるんだ」

「おいおいやり過ぎて、昼食の無料配布取りやめとかにするなよ?」

「わかってるって」

「お前、今日の仕事は? 農場の拡張だ」

「俺も農場。井戸から水路を広げるんだと」

「おれはオレンジ門・・・・・の外にある、グリーン農場・・・・・・の手伝いだ」

「グリーンさん所か……いいなぁ」

「このスケベ野郎」

「そっ! そういう意味じゃねぇよ! ほら……! あそこの作物の育て方ってすげぇ参考になるだろ!」

「うはははは! 若い若い!」

「てめぇ!」

「喧嘩は御法度だぞ!」

「おっおう!」


 風魔法を使って、日雇いの簡易食堂に並ぶ、労働者たちの言葉を拾ったのだけれど、おおむね好調なようね。


 デュクスブルクに来てから、約一ヶ月が過ぎていたわ。

 難民街のようにぼろ布のテントが並んでいた一帯には、この土地の建築方法をベースに、強度を増した石造りの5階建て建築が並んでいるわ。

 そのほとんどは、肩を寄せ合って暮らしていた元住民の人たちが移り住んでいるの。


 一度帝国から、皇帝陛下からの書状を携えた文官の方がいらっしゃったの。諸処の予算などを請求してほしいとの事だったわ。

 お忍び視察と伝えてあったからか、陛下はお礼の言葉を添えたのみだったわ。

 うんうん。メンヒェルさん有能よね。


 でも、その文官さんは、すぐに追い返される事になっちゃったの。たまたまいたシュトラウスさんが窓口になるって強行しちゃったのよ。

 最初は申し訳無いと思ったのだけれど、シュトラウスさんの権限で、予算申請はどんどん通っているので、結果的には良かったかも知れないわね。

 さすが貴族よねぇ。

 帝国の制度に文句を言ってしまったら、内政干渉になってしまうから、今回は素直に乗っておきましょう。


「シュトラウス、これが新たな井戸の予算で、こっちが人足の予算だ。大豆畑が順調だから、1年で元は取れるはずだぞ」

「ふむ。まさか大豆があれほど栄養価が高いとはね。料理のレシピも沢山いただいて、今は普及させるべく、この街に大豆をかき集めているよ」

「こっちが特殊落下ハンマー式井戸掘り装置の設計図だ」

「ありがたいが、良いのかい?」

「大丈夫だ。許可は取ってある」

「ならばありがたくいただこう」

「約束は覚えているな?」

「ああ、専売せずに、希望するギルドなどに無償で教えるだろ? 抜かりはないさ」

「ならいい。この土地は水さえあれば、あとは根気よく耕すことで復帰するとグリーンが言っていたからな」

「ああ、農場も視察させてもらったよ。枝豆というのをいただいたけれど、あれは美味い物だな」

「輸送には向かないけどな」


 こんな感じでティグレさんとシュトラウスさんが、毎日予算関連のやり取りをしているわ。

 出会いで喧嘩をしていたから心配していたけれど、こういうところ男性って不思議よね。


 もちろん帝国に伝えてもらっている技術は井戸だけでなく、大豆の効率的な育て方や、グリーンの農業魔法で徹底的に品種改良された大豆そのものを渡してもらったりしているわ。

 ほぼ1ヶ月で収穫出来て、1年で3回は植えられるのよ。休耕時に植える花なども品種改良して渡してあるわ。


 そんな順調な日々を過ごしていたと思っていたのだけれど、その日、とうとう事件が起きてしまったの。


「ミレーヌ様、緊急連絡でござる! グリーン農場に沢山の野盗が現れたでござる!」

「なんですって?」

「規模は100人を超える規模でござる。敵勢力を詳しく調べる前に報告に来たでござるよ」

「良い判断だわ。ティグレさん、レッドと合流して、救援に向かってくれるかしら? ダークも連れて行って良いわよ」

「任せろ!」

「それならば私も!」

「いいえ、リンファさんはオレンジ門で、避難してくる人たちを誘導してください」

「了解いたしました!」

「野盗だって? それにしちゃあずいぶんな規模だな」

「この辺でも大きい部類になりますか?」

「ああ。聞いた事が無い。私も城壁上まで行こう」

「わかりました」


 私はブルーとシュトラウスさん、連絡役としてシノブを連れて城壁に急いだわ。

 実際には私を抱っこしてくれているブルーが急いだのだけれど。

 私たちがオレンジ門と名付けられた新しい城門の上に作られた物見台に登ると、プラッツ君とレイムさん。それにアイーシャさんもやって来たわ。


「あら、ミケさんは?」

「リンファに事情を聞いて、ミケは手伝ってる。俺たちはとにかく話を聞こうと思って」

「うん。突っ込んで無くて良かったわ」

「ミレーヌは俺の事を何だと思ってるんだよ」


 手の掛かる弟かしらって言ったら怒られちゃうわよね。


「ちょっとまってね、遠見の魔法を空中に映し出すわね」

「流石ミレーヌだな。同時に二つの魔法を発動させられるなんて」

「そのうちプラッツ君にも出来るようになってもらうわ。……遠見ディスタント・ビュー空間映像スペイシアル・ディスプレイ音声風達イーブズドロップ


 3つの魔法が組み合わさって、私たちの眼前に、遠くの風景が、水面のように映し出されたわ。

 もちろん音声付きよ。広範囲の音を凝縮して拾っているから、要領を得ないけれどね。

 プラッツ君とレイムさんは目を丸くしていたわね。


「おいおいおい……これ本当に100人か?」

「恐らく別働隊が合流したでござるな。200人はいるでござる」

「あ、動きが止まりましたね」


 レイムさんの言うとおり、野盗と思われる集団は、グリーン農場ファームの側まで来ると、囲むように止まったわ。

 この一ヶ月で拡張しまくったイソボン農場ほどでは無いけれど、かなり広い実験農場を、穴だらけとはいえ半包囲しているのだから、やっぱり凄い数ね。

 野盗のほとんどは徒歩だったけれど、一部には騎馬もいるわね。


 そして唯一の2足トカゲにまたがった、最も装備の良い男性が、トカゲ上から声を上げたわ。


「告げる! 我らに踏みしだかれたく無くば、この農園の収穫物を今すぐ全て差し出せ! そうすれば命だけは助けてやろう!」


 鉄をふんだんに使った、贅沢な槍を天に向けたわ。

 これは本気ね。

 城門を見るとティグレさんがレッドに指示を出しているのが見えたわ。レッドの足ならすぐなのだけれど、その前に野盗の頭領にのんびりとした声が届いたの。


「あの~。それは出来ないんですぅ~」

「……なんだこの破廉恥な娘は?」


 そこにはいつの間にか、グリーンがおっとりと立ち塞がっていたわ。

 葉っぱビキニで。


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