第八十八話【みんなで、実戦なのじゃ!】
「あちきが来たからには狼藉は許さないにゃ!」
「ミケ、一人で平気か?」
「こんな雑魚、充分にゃ!」
「危なくなったら言えよ。アイーシャ立てるか?」
「ちっ! 近寄るんじゃないのじゃ!」
アイーシャは慌てて立ち上がり、こっそり
どこに使ったとか知らんのじゃ!!!!!
「なんだぁ? 獣人じゃねぇか。よくもまぁ人間様の街に出てきたな」
「おい、あっちの白い虎、強そうだぞ?」
「阿呆、こっちの人数を考えろ」
「それにこっちに来るのは、猫野郎だけだ。先に潰しちまえ!」
「猫獣人なんてメスでも売れねぇよ……ボコっちまえ!」
男どもはどこからか、錆の浮いた短剣を取り出したのじゃ!
ひぃなのじゃ!
「ミケ殿! 危ないのじゃ!」
「んへ? だいじょーぶにゃ。これでも|虎(グオ)種族と模擬戦も良くやってるにゃ」
「あああ! ミケ殿! よそ見したら……!」
「こんなんあたらないにゃ」
こっちを見ていたミケ殿に、身体ごと突っ込んできた男を、確認もしていないのに、ひらりと躱したにゃ! ……のじゃ!
「えいにゃ」
ミケ殿が姿勢を崩した男の首筋に手刀を入れると、あっさりと気を失って、その場に崩れ落ちたのじゃ。
「父上が、敵を気絶させるのはほぼ無理と言っていたのじゃが……」
「俺たちはそういう訓練をひたすら積んでるからな。あの程度楽勝だ」
「そういうものなんか?」
うーん。ティグレ殿がそう言うのなら、そうなんじゃろな。
ミレーヌ神聖王国では、あんまり深く考えない方がいいのじゃ。
「えいにゃ。えいにゃ」
あっと言う間に6人が地べたに転がったのじゃ。残りの6人が逃げようとしたのじゃが、ティグレ殿が瞬間移動して、一人をとっ捕まえたのじゃ。
……見えなかったのじゃ。
「おっと、逃がさねぇよ。金を返してもらうぜ?」
「か! 返すから見逃してくれぇえ!!」
「憲兵かなんかに突き出しても、迷惑かもしれんな。お前ら、そこで転がってる奴を連れてけ」
「ティグレ殿? 無罪放免にするのじゃ?」
「国が違うからな。面倒事に突っ込む事もねぇだろ。ほら。もう街中で財布を取り出すんじゃねーぞ」
「……すまんのじゃ」
賊が仲間を抱えて「覚えてろー!」と立ち去ると、周りからどっと感性が沸いたのじゃ。
「おお! あんたらすげぇな! 獣人は理性の無い奴ばかりだと思っていたが」
「そうなのか? 俺は別の国の出身だからな。その差かもしれねぇよ」
「いやいや、あいつら最近現れて、好き放題やってたんだ。礼を言うよ!」
「なに、成り行きだ」
くそう、ちょっと格好いいのじゃ。
「大丈夫だったかにゃ?」
「ミケ殿のおかげで無傷にゃ……のじゃ」
なんか口調が移るのじゃ。
「タオル使うにゃ?」
「必要ないのじゃあああああ!!」
尊敬が一瞬でぶっ飛んだのじゃ!!
ちゃんと
「おい、お漏らし娘」
「おっ!?」
「散歩するなとは言わねぇが、一人で行動するんじゃねーよ。言えば誰か一緒につくからよ」
「ぬ……ぐっ!」
魔法でぶっ飛ばしたいのじゃ!
でも助けてもらったのじゃ!
ぬぐぐぐぐぐぐ!!
「さて、戻りたい所なんだが……」
「のじゃ?」
なぜかティグレ殿が、ニヤリと笑みを浮かべたのじゃ。
「懲りないにゃあ」
「まったくだ」
「のじゃ? のじゃ?」
ティグレ殿とミケ殿が向いた先に、なんとさっきの奴らを先頭に、50人くらい武器を持った男たちが現れたのじゃ!
「てめえら、俺の可愛い部下を撫でてくれたらしいな?」
髭面の強面が、巨大なボロ剣を肩に背負って、出てきたのじゃ。
「お前さんの感性と、俺の感性は合わないらしいな。そいつらのツラに可愛げを全く感じねぇよ」
「……舐めてんのか? 獣人風情が」
「生憎俺の故郷じゃ、全員対等なもんでな」
「ほう?」
ティグレ殿もなんで挑発してるのじゃ!? 逃げるか助けを呼ばないとなのじゃ!
「あちしの趣味じゃないにゃー」
「てめぇら……つまり舐めてやがるんだな?」
「なんだ、ちゃんとわかってるじゃないか」
「クソがぁ! テメエら! 構わねぇ! 殺しちまえ!」
「「「おう!!!」」」
ぎゃーーーー!! 地煙上げて襲って来たのじゃああ!!
「動きが単調だっつーの」
「雑魚がどれだけいても雑魚だにゃー」
ティグレ殿は、どう動いたのか、先頭の男の足を掴んで、軽々と持ち上げたのじゃ。
そして、それを棒でも振り回すように、横薙ぎにして、突っ込んできた野郎共を吹っ飛ばしたのじゃ!
どういう腕力をしておるのじゃ!!
「げべがっぱー!」
「ぎゃおー!」
「どわー!!!」
「えいにゃ! えいにゃ!」
ミケ殿も負けじと、次々と賊どもをひっくり返しているのじゃ。
「ええい! アイーシャもやるのじゃ! 喰らえ!
これは非殺傷の護身用攻撃魔法じゃ。
魔術学園で教えてもらえる数少ない攻撃魔法の一つじゃな。
6つの圧縮された空気の弾が、賊を次々と打ち倒したのじゃ。
……防御魔法を使っていない人間とは、ああも簡単に吹き飛ぶのじゃな。
「お、やるじゃねぇか」
「ふ、ふん! アイーシャはベステラティンの人間じゃからな!」
「いいねぇ。じゃああっちの一団は頼むわ」
「任されたのじゃ!
ばったんばったん倒れていくのを見ると、爽快なのじゃ!
「なんだ、もう終わりか?」
「き……貴様ら……何者だ!?」
「ただの旅行者だよ」
「旅行!? 獣人が旅行!?」
その驚きに関しては、ちょっとだけ賊の頭領に賛同出来てしまうのじゃ。
1年前だったら、とても信じられなかったのじゃ。
「おう。まあ正確には護衛を兼任だがな……ん?」
ティグレ殿がふと顔を別の方向に向けたのじゃ。
いつの間にそこにいたのか、シノブ殿が立っていたのじゃ!
「ティグレ殿、兵隊が向かってるでござる」
「なに? 面倒事はごめんだな。逃げるぞ! ミケ! アイーシャ!」
「のじゃ?」
「失礼するでござるよ」
アイーシャはひょいと、シノブ殿に抱っこされたのじゃ。
なぜか大歓声を浴びながら、アイーシャたちはその場を離れたのじゃ。
怖かったのじゃが……ちょっと楽しかったのじゃ。
「この台風娘が……」
戻って説明したら、プラッツが頭を抱えたのじゃ。失礼な奴じゃな!
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