第八十七話【みんなで、迷ったのじゃ!】


「まったく! プラッツは阿呆なのじゃ! アイーシャだって治癒魔法くらい手伝えるのじゃ! ただ、ちょっと臭い奴を操風マニピュレイトウィンドでテントの外まで吹き飛ばしてしまったくらいで、狭量なのじゃ!」


 あの程度で診療所を追い出すなど、不敬なのじゃ!

 こっちから治療などお断りなのじゃ!

 臭いし!


「ぬう……それにしても陰気な街なのじゃ」


 父上のベステラティン領はベルーア王国の中で、都に次ぐ発展を見せておったのじゃ。

 アイーシャにはこういう田舎で汚いところは合わないのじゃ!

 ……でも、陛下とは一緒にいたかったのじゃ。


 ミレーヌ陛下は尊敬出来るお方なのじゃ。

 たまに厳しいのが玉に瑕なのじゃが。

 それでもミレーヌ陛下が旅行に出ると聞いたら、参加するしか無かったのじゃ。


 実際、旅路は超楽だったのじゃ。

 おっそろしく速いのに、あんまり揺れない馬車と、ほぼ家と呼べる持ち運びコテージに、メイドの給仕なのじゃ。

 飯は美味いし、寝床も快適。馬車でもお茶をしながらおしゃべりなのじゃ。

 衣食住を抱えたまま移動していたレベルだったのじゃ。

 むしろ、宿に泊まるときの方が、不便が多かったのじゃ。


 ブルー殿は陛下にべったりじゃが、オレンジ殿もメイドとしてのレベルは並外れていたのじゃ。

 物を作るしか能がないと思っていたのでびっくりしたのじゃ。

 むしろ、レッド殿が一番だらしなかったのじゃ。本当に強いのじゃ?


 しかし、なんじゃここは!

 楽しい旅の気分が全部吹っ飛んだのじゃ!

 陰気で汚くて狭くて臭いのじゃ!


 しっかも入り組んでいて、どこを歩いているのかもわからんのじゃ!

 ミレーヌ神聖王国の造りを見習うのじゃ!


 ……のじゃ?

 どこを歩いているのかもわからん……のじゃ?


 のじゃー!!!!


「帰り道がわからんのじゃーー!!!」


 つい大声を上げてしまったのじゃ!

 左右を見渡すが、似たような狭い路地が曲がりくねっていて、先を全然見渡せないのじゃ。

 どうなっているのじゃ?


 そう言えば父上に、前線の砦などでは、街の建物自体を城壁の一部と見なして設計すると聞いたことがあるのじゃ。

 魔術学園では、あまり戦争に関する授業な無いから、忘れていたのじゃ。

 たしか、城壁を越えて侵入してきた敵を狭い路地で分断して、迷わせるとか言ってたのじゃ。


 うん。アイーシャが迷っても仕方ないのじゃ。

 それにしても、アイーシャは今どこにいるのじゃ?


 真っ直ぐ歩いていたつもりだったのじゃが、路地自体が常にカーブしておって、完全に方向感覚を失ってしまったのじゃ。

 アイーシャには太陽で方向を知る術すらないし、そもそも背の高い建物が覆い被さるような造りじゃから、空も良く見えんのじゃ!


「よお、おチビさん。迷子みたいだな」

「のじゃ?」


 どこにあったのか、左右の細い路地から、より一層小汚いおっさんどもが湧き出してきたのじゃ。

 6人ほどが目の前でアイーシャの進路を塞ぎ、さらに6人が後ろに出てきたのじゃ。


「なんで知っておるんじゃ?」

「今大声で叫んでたろーが」

「そう言えばそうだったのじゃ」


 うん。アイーシャが自ら語っていたのじゃ。


「そうじゃ、ちょうど良いのじゃ。城壁が大きく崩れた場所を知っていたら教えて欲しいのじゃ」

「おお、良いぜ。ただし……」

「お礼ならちゃんとするのじゃ」


 ミレーヌ神聖王国の銀貨は質が良いので、ここでも喜ばれるじゃろ。三枚くらいで良いかの?

 革袋から、銀貨を取り出そうとしたら、何故か革袋が手から消えたのじゃ。


「のじゃ!?」

「おいおい! やっぱお貴族様みたいだぞ! 見ろ! 銀貨だけじゃなく金貨まであるぞ!」

「そいつはいいな!」

「それはアイーシャの小遣いなのじゃ! 全部やるとは言ってないのじゃ!」

「ああん? 親切に道案内してやろうっていう俺たちに、礼すらできねぇってか?」

「れ、礼はちゃんとすると言ったのじゃ……」


 なんか様子が変なのじゃ。

 男たちは低く笑い出し、そして笑っていない視線をこちらに向けてきたのじゃが……今までに無い恐ろしい瞳をしていたのじゃ。

 その時初めて、こいつらが賊であると気付いて、恐怖が背中を走ったのじゃ。


「ふうん? 最近の貴族様は礼儀もなっていないようだな……。案内してやろうと思ったが気が変わった。お前ら、ちと楽しんで良いぞ?」

「楽しむってガキじゃねーですか! ぶははは!」

「んじゃ俺が……」

「お前は相変わらずだねぇ」

「ぐへへ……」


 二人の男が、恐ろしい笑みを顔に貼り付けてアイーシャにせまってきたのじゃ!

 その時アイーシャは恐怖で魔法を使うという考えすら出来なかったのじゃ。

 恐怖で身体が固まって、震える以外出来なかったのじゃ。


 男の手が、アイーシャの服に伸びてきた、その時だったのじゃ。


「必殺! 猫キックにゃ!!!」

「どわぁ!?」


 男が、いきなり真横にすっ飛んで壁に頭をぶつけ、そのまま気絶したのじゃ。

 アイーシャはハッキリ見てしまったのじゃ。

 男に真横からドロップキックをかました猫獣人の姿を。


「ミケ殿!」

「ずばっと参上にゃ!」


 ぴきゅーんとポーズを取るミケ殿の姿を見て、アイーシャはその場にへたり込んでしまったのじゃ。

 ……ゆ、床が濡れているのは秘密の事なのじゃ!


「タオルいるか?」

「いらんのじゃ!」


 ティグレ殿は後で滅するのじゃああああああああああ!


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