第八十六話【みんなで、がんばります】


「おい! そこ割り込むな! 女子供が先だ!」

「重病人が優先にゃー! 動けない人は運ぶにゃー!」

「おれ、エルフの騎士様にお姫様抱っこで運んでもらったぜーでへへ」

「マジかよ……でも俺だって、褐色エルフさんに運んでもらったんだぞ!」

「仮病の奴はケツ蹴っ飛ばして、就職列も最後尾だからな!」

「買い出しは誰がいく?」

「就職希望の奴らで、手続きの終わった奴を連れてけ!」

「なるほどでござる。それでこの国にその話はどの程度伝わっているでござるか?」

「西に新しい国が出来て、帝国と王国と対等にやりあってるってぐらいか。あ、あとは聖女がどーたら」

「ありがとうでござる」


 コテージ周辺は完全にカオス状態だったわ。


「ミレーヌ様。冷たい果実のジュースをいれました」

「ありがとう。ブルー」


 私はコテージが見下ろせる建物を借りて、そこから様子を伺っていたわ。今はシュトラウスさんとレッドも一緒よ。


「見事な手際だな」

「ありがとうございます。シュトラウスさんも何か飲まれますか?」

「ワインがあればいただきたいが」

「まだ1年ほどの若い物で良ければ」

「ああ、それでよい。頼む」

「はい。かしこまりました」

「あー! 俺も俺も!」

「貴女は少し控えなさい」

「ぶーぶー」


 下ではティグレさんをはじめに、リンファさんやミケさんが必死でお手伝いしてくれているわ。

 レイムさんとプラッツ君は簡易診療所ね。

 シノブは情報収集。グリーンは地質の調査ね。


「しかし……あの城壁が崩れたのっていつだ?」


 レッドが不意にそんなことを呟いたわ。


「私は知らないが……」

「そうか。なんとなくだけど、割と最近崩れたんじゃ無いかと思ってさ」

「どうしてそう思ったの?」

「崩れている断面の上の方と、下の方で色が違うのと、瓦礫が結構散らばってるだろ? 昔に崩れたなら、流石に瓦礫くらい片付けてるんじゃないかと思ってさ」

「老朽化したのかしら?」

「ああ、なるほどな。さすがミレーヌ様だぜ!」

「折角ですから、あそこに門でも作っちゃいましょうか」

「フロイライン、老婆心ながら忠告すると、城門というのは、作製に偉い時間と金の掛かるものなのだよ」

「でも、無いと不便よね?」

「まあ……それはそうだが」

「あとで冒険者ギルドに、魔核が手に入るか相談してみましょう」

「魔核? 話が飛んだようだが?」

「こちらの話なので、気にしないでくださいね」

「ふむ?」


 シュトラウスさんは首を捻ったけれど、それ以上は追求してこなかったわ。

 ……それよりいつまで一緒にいるつもりなのかしら?

 その辺りのことを切り出すか悩んでいたら、シュトラウスさんが立ち上がったの。


「さて、それでは私はここの領主に誘いを受けているので、そろそろ失礼するよ。しばらく滞在する予定なので、いつでも訪ねてきたまえ。はっはっは!」

「はあ」


 マントを翻して、そのまま去って行ってしまったわ。


「ようやく消えてくれましたね」

「そうね」

「つーかさ、あいつなんでずっと一緒にいたんだろうな?」

「さあ?」

「貴族の考えはわかりませんね。いっそ暗殺してきますか?」

「やめて」

「冗談です」

「時々ブルーの冗談は笑えないわ」


 それよりも、お邪魔虫も消えたし、下の様子を見に行きましょうか。

 ティグレさんは忙しそうなので、エルフのリンファさんに声を掛けたわ。


「お疲れ様です、リンファさん」

「こ! これはお嬢ちゃま!」


 この旅のあいだ、できるだけ陛下と言わないように、リンファさんにはお嬢様と呼ぶように、ティグレさんが指示したのだけれど、早速噛んでるわね。


「こちらの状況はどうですか?」

「少々の混乱はありましゅが、概ね順調かと。ただ……」

「何か問題が?」

「その、この周辺以外の方もかなり集まってしまっているようなのです。ティグレ様は気にせずに受け付けろと言うのですが」

「さすがティグレさんね。私が許可するのをわかってるわ」

「指示を仰がず不安だったのですが、良かったです」

「良いのよ。それよりも疲れてない?」

「これでも騎士ですから!」(葉っぱビキニでモデルよりするよりも、よっぽど楽です)

「ん?」

「いえ、なんでもありませにゅ」


 流石、騎士の称号は伊達では無いわね。

 エルフっていうと、もっと繊細なイメージだったけど、人によるのかしら?


 その後、診療所に寄って、プラッツ君とレイムさんにも様子を聞いたわ。

 想像以上に怪我人が多いようだったわ。

 病人が多いのは予想していたけれど、外傷を負った人が多いのは気になるわね。

 私も治療に参加しようか悩んでいるときだったわ、ブルーがふと首を傾げたの。


「ミレーヌ様。一つよろしいでしょうか?」

「何ブルー?」

「アイーシャ様にはどのような指示をお出しになられましたか?」

「え? ティグレさんかプラッツ君と一緒じゃ無いの?」

「先ほどから見受けられないものでしたから、気になりまして」

「……もしかして、迷子?」

「かも知れません」


 大変じゃないの。


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