第八十二話【みんなで、共闘します】


「まずは手前の6人組を叩く。エルフのねぇちゃんには、飛び道具からの防御を任せていいか?」

「心得た」

「アンタは俺と一緒に切り込むぞ」

「それはいいのだが……」

「なんだ?」

「なんで君が音頭を取っているのだね?」


 シュトラウスさんが腕を組んで片眉を持ち上げた。


「別に良い案があるなら聞くぞ?」

「いや、特に無いな!」

「じゃあいいじゃねぇか……」

「はははは! 君が偉そうだったから邪魔したくなったのだよ!」

「めんどくせぇなお前!……まあいい! 行くぞ!」

「はい!」

「任せたまえ!」


 こうして三人は、大岩に隠れている6人組に向かっていったわ。

 放って置いてもいいんだけれど、気になるので、馬車に戻って、小鳥を一時的な使い魔として、飛ばしてみたわ。

 ぱたぱたと飛んで、6人の賊が隠れている大岩に降り立ったわ。


「おい、なんかこっちに強そうなのが向かってないか?」

「は? 女だらけの美味しい獲物って言ってたろ」

「獣人の護衛がいたのは確認してたろ?」

「それが、獣人だけじゃなくて、なんか貴族っぽいやつがいつの間にか増えてるんだよ」

「くそっ。どっかのボンボンがたまたま一緒になったか?」

「ふん。一人や二人増えたくらいがなんだってんだ」

「だが本当に貴族なら、生け捕りにして、身代金が取れるだろ」

「そりゃいいや! よし、予定変更でその貴族を……」

「まった!」

「なっ! なんだ!?」

「こっちに向かってくる奴に、エルフがいる! しかもすげぇ美人だ!」

「「なんだって!?」」


 様子を伺っていた男の叫びに、慌てて岩陰から顔を覗かせる男たち。

 いやーねー。


「マジだぜ!」

「しかも騎士装束?」

「エルフ姫騎士……」

「姫どっから出てきた?」

「うるせえ! 男の夢だよ!」

「意味はわからんが同意してやろう」

「よし。予定再変更! あのエルフを生け捕りだ! 残りは皆殺しでもかまわねぇ!」

「貴族もか?」

「男なんぞいらん!」

「まぁ、生け捕りより殺す方が楽だからな」

「よし、それじゃああの護衛と貴族を殺るぞ!」

「それなんだが……」

「どうした?」

「あの護衛、獣人だぞ?」

「それがどうした。わかってたことだろ!」

「いや……それが……虎獣人なんだ……」

「「「え?」」」


 男たちが珍妙な声をハモったとき、唐突にその話題の主であるティグレさんが、走り出したわ。


「やっぱ気付かれてるんじゃねぇか!」

「獣人は近づけさせるな! 弓を使え!」

「「「おう!!!」」」


 短弓と弩弓を構えた男たちが、同時に矢を放ったわ。


「風の精霊よ、慈悲深きその御身にて飛来せし物から我らを守れ!」


 あ、しまったわ。

 使い魔越しだから、術式判別出来ないわね。もったい無かったわ。

 風を操る魔法に追随機能を付けた、特別な術式ね。たぶん。


「なにぃ!? 矢が明後日の方向に!?」

「エルフが精霊魔法を使うってのは本当だったんだ!」

「こりゃあ高く売れるぞ!」

「絶対に生け捕りだ!」


 6人の賊が岩陰から飛び出すと、各々剣や槍を構えたわ。


「ふん! 俺相手にたった6人とは舐められたものだな!」

「はっ! 君は引っ込んでいたまえ! 4人は私がお相手しよう! 君は残りを足止めしてくれていれば十分だ!」

「何言ってる! そういうのは俺の前を走って言え!」

「獣人は皆そんなに足が速いのかね!?」


 そりゃあ、獣人さんは肉体能力を重視して作られましたからねぇ。


「久しぶりに暴れさせてもらおうか!」

「ちょ! 君! 私の分を!」

「うははははははははは!」


 巨大な鉄製の手甲を突き出して、ティグレさんは6人の賊に突っ込んでいったわ。

 結果は……言うまでも無いわね。

 シュトラウスさんが追いつくまでに、6人全員が地面に転がっていたわ。


「いやあ。俺も手加減が上手くなったもんだぜ」

「き! 君! 私とやり合っていたときと随分違わないかい!?」

「そりゃあ、怪我させないようにするのと、死なない程度にぶっ飛ばすのじゃ、加減も変わるだろうよ」

「なっ!?」

「ティグレ様、流石ですね」

「ふん! こんくらい朝飯前よ!」

「次は奥の大木に隠れている一団ですね」

「もう終わるでござるよ」

「おわ!?」


 唐突にシュトラウスさんの横に現れたシノブに、驚いたようね。


「あれを見るでござる」

「あれ?」


 彼らの視線の先、街道をゆっくりと進む、ブルーの姿があったわ。


「あら、いつの間に」

「ああ、ブルーがさっき、ミレーヌ様を害するものは許せませんーって、ここは俺に任せて行っちゃったぜ」

「あらあら」


 折角だから、見学しましょうか。

 使い魔を奥の大木にやると、賊の困惑した声が飛び交っていたわ。


「おいおい! 前衛がやられちまったぞ!」

「嘘だろ!?」

「援護する暇も無いってどうなってんだ?」

「逃げるか?」

「アホ! 一応仲間だぞ! 助けてやらねぇと!」

「でもよ……」

「たしかに……あの強さは……」

「ちょっとまて、なんかメイドが一人でこっちに歩いてくるぞ?」

「なんだって?」

「あいつらの仲間だよな?」

「そうか、恐怖で錯乱してるな! よし! あいつを生け捕りにして人質交換だ!」

「それだ!」

「よし! 弓隊は狙いをしっかりつけておけ! 俺たち3人であいつを捕まえるぞ!」

「「おう!!」」


 そうして飛び出す3人の賊と、枝の上から狙いをつける3人。

 それらの賊に対して、ブルーはゆっくりとスカートの両端を持ち上げたわ。


「お初にお目に掛ります。私はメイドのブルーと申します」

「お、おう」

「なんだ?」

「馬鹿、錯乱してるだけだ。気にせずにとっ捕まえろ!」

「わっわかった!」


 ブルーに襲いかかる三人に、ニッコリと微笑みを返すブルー。


「おや、皆様はやはり狼藉を働くのですね……私の……私のミレーヌ様に!」

「ひっ!?」

「メイドの嗜みをお見せしましょう」


 フワリとスカートが翻ったかと思った瞬間、賊の3人がぐぎゃっと悲鳴を上げて地面にうずくまったわ。


「一瞬で肋骨を蹴り折った!?」


 叫んだのはティグレさんよ。


「なっなに? 全く見えなかった……」


 そりゃあ距離もあるし、人間には難しいのでは無いかしら。

 ちなみに私には何が起きたかも全くわからなかった!


「主人にあだなすものに鉄槌を。メイドの嗜みでございます」


 ふわり。

 大木に飛び上がったかと思ったら、一瞬で樹上の3人が地べたに落下してきたわ。


「すげぇな。見事に全員の肋骨をへし折ってやがる……」

「か! 彼女はメイドではないのかね!?」

「え? メイドって強いんじゃ無いのか?」

「少年……君は何を言っているのだ?」


 お手伝いで最初の6人をロープで縛っていたプラッツ君の疑問に、シュトラウスさんが疲れたように突っ込んだわ。


 え?

 メイドってそういう物じゃ無いの??

 ブルーの元になったメイドさんは、魔導騎士とほぼ同格だったわよね?


「メイドに出来ぬ事などありません」


 うん。そうよね?


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