第八十三話【みんなで、キャンプします】
「てめぇら覚えてろよ!」
「くそがぁ!」
「うえええええん」
「だから盗賊なんてやめようって言ったんだよ兄ちゃん……」
「うるせぇ! 今更だろ!」
現在全裸で逆さまに大木に吊されている12人。
もちろん私はチラリとも見てないわよ。
ブルーたちの報告を聞いただけ。
「シュトラウスさん、これで良かったのですか?」
「ああ、命があるだけでもありがたいと思ってもらわないとな」
「いえ、そういう意味ではなく……」
「次に寄る町で連絡しておくから安心したまえ! それにこの状態のあほどもに近づこうとする奴もいないだろう」
「たしかに……」
確認はしていないけれど、太い枝に12人、奇妙な果実がぶら下がっているのだものね。
色んな意味で近寄りたくないわ。
「ちくしょうー! これでラパン盗賊団も終わりだぁ!」
「今日が初仕事だったけどな!」
「言うなアホ!」
「だれだよ! 冒険者より気楽で儲かるなんて言った馬鹿は!」
「ようやくアジトを見つけたばっかりだったのにぃ!」
なんていうか、悲惨ね。
「悪党に持ち合わせる慈悲はございません。生かしておくだけでも温情かと」
「まぁ、ちゃんと裁きは受けないとね」
「ははは! その辺は私がやっておこう!」
「そうですね。よろしくお願いします!」
「ははは! 惚れたかね? フロイライン!」
「いえ。まったく」
「そうか! ははははは!」
その後、隣町に到着してすぐに、シュトラウスさんが警備隊に連絡に行ってくれたわ。
「それじゃあ私たちは彼に任せて行きましょうか」
「はい」
そうして再出発したのだけれど……。
「きっ! 君たち! 置いていくとは酷いじゃ無いか!!」
「ああ、やっぱり来たのですか」
「デュクスブルクまで案内すると言っただろう!?」
「頼んでは無いですけれどね」
「ははは! 遠慮することは無い! ……すまぬが神官の娘! 水をもらえないか!?」
「えーと……」
「お願いするわ、レイムさん」
放っておく訳にも行きませんしね。
「しかし、まさか宿場町を無視して野宿するとは思わなかった。何度も通り過ぎてしまったかと疑ったぞ」
そのまま町に泊まっていれば良かったのに。
「し……しかし、なんだねこれは?」
シュトラウスさんが言っているのは、天幕の事よ。
「ほとんど家では無いか……」
「これでも簡易タイプなんですよ」
組み立て式の柱と、防水布で作られた簡易コテージが2つ。
オレンジがいるからこその、大型コテージね。
普通なら数人の大人で、数時間は設置にかかるらしいわ。
「信じられんな……」
「良かったら、一緒に食事をしますか?」
「それはありがたい! まさか野営だとは思っておらず、最低限しか持ってなかったのだよ!」
「ミレーヌ様、放置しておいても良いのでは?」
「ブルー、シュトラウスさんは貴族って言っていたじゃ無い。下手をしたら国際問題になりかねないのよ?」
「その為のお忍びですが」
「目の前で倒れられちゃったら、私の気分が悪くなっちゃうわ」
「本当にミレーヌ様はお優しいですね」
「えへへ」
久しぶりにブルーに褒められて気分も良くなったので、一緒に食事をする事になったわ。
「おお! これは美味い! なんという美味さだ!? 一見ただのスープではないか!!」
「あー、これはちゃんと出汁を取ってるんだよ」
「だし?」
「ああ。魚を干して乾燥させたもんや、海藻やキノコを干した物。そういう加工した物をお湯で戻すと、これがまた、美味い出汁になるんだ」
「だし……というのはよくわからんが、秘伝の製法なのだな。ううむ……これは凄い」
「秘伝って、今全部説明したとおもったんだけどなぁ」
「オレンジ、諦めなさい。貴族というのは生き方が違うのです」
「そうかぁ。ベステラティンさんは色々熱心に聞いてたけどなぁ」
「父上は特別なのじゃ!」
「案外そうなのかもしれませんね」
ブルーの呟きの意味を考えてみたけれど、優秀以外の含みがありそうね。
「ミレーヌ。つまり貴族としての地位は今代限り、さらに今の権力を一部でも持っていくためには、有能な領主としての手腕を見せなけりゃあならん。必死さが違うんだぜ」
「ああ、なるほど」
私の疑問に、ティグレさんがこっそりと教えてくれたわ。
そう言えばベステラティン領は、かなり理想的に本国の政治形態が履行されているのよね。
「しかし君たちは良く、野宿する気になんかなったね」
お腹が膨れたからか、再びシュトラウスさんが話し掛けてきたわ。
「どういう意味でしょう?」
「いや、昼間盗賊に襲われただろう? 町に近い場所ですらあれだ。こんな荒れ地のど真ん中、街道の途中というわかりやすい場所で、煌々と炎を使っていたら、再び盗賊に襲われるという発想はなかったのかね?」
「ああ。それなら大丈夫だ」
「ふむ? 良ければ理由を聞いても?」
「ウチには何と言ってもメイドがいるからな!」
「そうだな。メイドがいるもんなぁ」
「その通りよね。私のメイドがいるんですもの」
「……君らは何を言っているのだ?」
シュトラウスさんこそ何を言っているのかしら?
メイドが6人もいるのよ?
軍隊だって怖くないわ。
……普通そうよね?
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