第八十一話【みんなで、移動します】
「ちょっ! 君たち! 待ちたまえよ! そんなに急いでどこへ行く!!」
「デュクスブルク」
ぼそりと答えたのは、ダークだったわ。
なんとなく珍しいわね。
「なんでその2足トカゲはそんなに速いのに、疲れないのかね!」
「育ちがいい。餌が違う」
「くっ……我が名馬ゲヴェーンリヒが音を上げそうだ!」
「馬、可哀相、休め」
なんかダークが、相手の顔も見ずに突っ込んでるわね。
「一緒に移動したいわけじゃ無いのだけれど……まぁいいわ。少し早いけれど休憩にしましょうか」
「わかりました」
ブルーの合図で4台の馬車は、街道の脇に寄って止まったわ。
「はぁはぁ……軍事訓練を思い出すよ……」
汗だくで馬を下りてきたシュトラウスさん。
そして、きょろきょろと回りを見渡したわ。
「ここは……河が無いのかって! 君たち!?」
プラッツ君と、レイムさんが、馬車をおりると、バケツに魔法を唱えたわ。
「
8匹の2足トカゲが嬉しそうに水を飲むのを、シュトラウスさんと、彼の愛馬のゲヴェーンリヒが物欲しそうに見つめていたわ。
「あの、ミレーヌさん……」
「レイムさんに任せるわ」
「はい! ……貴族様もどうぞ」
レイムさんは、カップに入った水をシュトラウスさんに差し出し、空いたバケツに水を入れて、ゲヴェーンリヒに飲ませたわ。
優しいわよね。
「おお! 娘感謝するぞ!」
「いえいえ、旅は助け合いですから」
「しかし、最近の神官殿はこの様な魔法も使えるのかね?」
首を傾げるシュトラウスさん。
「攻撃
「ふむ。確かに」
言い淀んでいたレイムさんに変わって、プラッツ君がスッと割り込んできたわ。
うん。上手いわ。
実際、神官レベルで有れば、水を出すことは出来るみたいですしね。
もっとも、大量の水を、魔石も無しに生み出す事なんて出来ないんでしょうけど
「それにしても、これほど巨大な馬車なのに、とんでもないスピードだね。まったく」
「それは車輪と車軸に秘密があるんだよ。地面からの衝撃を吸収する機構が組み込まれてるんだ」
「ほう」
オレンジの解説に、なるほどと頷いてみせるシュトラウスさん。
技術には興味がありそうだけれど、技術の中身その物には興味が無いみたいね。
「これは購入出来るのかい?」
「いえ、今はまだ神聖王国の一部でしか手に入りません」
本当は販売してないけれどね。
「ふーむ。それは残念」
「それではそろそろ行きましょうか」
2足トカゲだけでなく、シュトラウスさんの愛馬のゲヴェーンリヒも、充分休養出来たみたいですからね。
「それではミレー……ごほんっ! お嬢様、出発いたしましゅ」
エルフのリンファさんが御者台にひらりと乗り込みながら宣言したわ。
「だから! どうして! その馬車でその速度なんだぁあ!!!」
聞こえなかったことにしましょう。
◆
「ミレーヌ様、嫌な予感がする」
「え?」
次の日、街道を爆進していると、ダークがぼそりと呟いたの。
それとほぼ同時に、シノブが窓から逆さまに顔を覗かせたわ。
「ミレーヌ様、敵がいるでござる」
「敵?
「おそらく、人でござる」
「人?」
私が疑問の声を上げたとき、馬車が止まったわ。
ティグレさんが小走りにこっちに向かってきたの。
「ミレーヌ、ちょっといいか? なんか様子がおかしい」
「ティグレ殿も感じたでござるか」
「ミケも感づいたみたいだ。嫌な予感がする」
「伏兵でござるよ」
「なんだと?」
「わかったわ。ちょっと魔法で調べてみるわね。シノブ、敵の方向はわかる?」
「奥に見える、大岩のあたりでござる」
私は馬車を降りると、一つの魔法を唱えたわ。
「
やや方向性を強めて、探査の魔法を放ったわ。
前方の大岩に6人……さらに奥の大木の上に3人……その足下に3人……。
随分大人数ね。
「恐らく武装した敵が待ち伏せしているわ」
私が詳細をみんなに伝え終わった頃、後ろから馬が早足で追いついてきたわ。
「はぁ! はぁ! や……やっと追いついたぞ! やっと休憩かね?」
シュトラウスさんが息も絶え絶えで、私の横にやって来たわ。
「いえ、この先に、賊がいるようなので、どうするか考えていたところです」
「賊? なるほど。軍縮に伴って、解体された傭兵団の一部が盗賊になっていると聞いたな」
「冒険者にならなかったのですか?」
「王都付近の冒険者ギルドが、体制を変えて人を集めているとは聞いたが、ここは帝国では周辺だからな。それにこのあたりは古戦場で、古い砦や、捨てられた防衛施設が大量にあるのだよ」
「それは、彼らに取っては天国のような場所ですね」
「うむ。だが! 安心してくれたまえ! 貴族であり、騎士でもあるこのシュトラウス・グレンツェントが見事に賊を打ち破ってくれよう!」
「そりゃあいいんだが、敵は最低でも12人の武装集団だぞ?」
「な、なに?」
ティグレさんが呆れたように肩をすくめたわ。
「い、いや! それでも退かぬのが騎士というもの!」
「ふうん? 根性はあるんだな。ならば共闘といかねぇか? アンタの力量は俺がわかってる」
「ならば私も協力させてください!」
「エルフのねぇちゃんか。確かに精霊魔法の援護があればありがたいな」
「私が精霊魔法で弓矢からの攻撃を防ごう!」
「そりゃあありがたい。どうする?」
「君は王国の騎士か……。ふむ。まさかガルドラゴン王国の騎士と轡を並べる日が来るとはね」
「まだ未熟ではありますが、どうか協力しゃせてください!」
「うむ。それでは我らで敵を打ち砕こうではないか!」
「あ、シュトラウスさん。出来れば殺さないようにお願いしますね」
「な、なに?」
犯罪者ですから、遠慮はいらないとはおもうんですけれど、やっぱり、ね?
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