第七十四話【おきらく、進級テスト】


 それから1週間は、完全に自習にしたわ。

 私は試験問題を作りつつ、質問にくる人の相手をしたの。


 せっかくだからプラッツ君にもテストする事にしたわ。

 まさかアイーシャさんより点数が低いなんて事は無いわよね? って突いてみたら、乗ってきたわ。

 うん。プラッツ君は単純よね。


 この学園唯一の高等部である、ロドリゲス・エボナ神官長にもお手伝いに来てもらっているわ。

 なかなか私に声を掛けられない生徒さんも、多いですからね。

 なんだかロドリゲスさんの回りにばかり人が集まっているわ。……ぐすん。


「ロドリゲスさん。教会の仕事もあるでしょうに、すみませんでした。ちょっと思いつきで……」

「いえいえ。気にしないでください。私としては、こちらで得るものの方が大きいですからね」

「ありがとうございます」

「しかし勉学に励む若者……だけではありませんが、彼らを見ているとこちらも若返るようですよ」


 ロドリゲスさん、実はもう寿命が延び始める頃なのよねぇ。

 恐らく今の見た目のまま、長生き出来ると思うわ。

 このまま魔法と魔術の腕を磨いていけば、この世界の平均寿命は大幅に超えるのは間違い無いわね。

 まだ実感は無いでしょうから、もう少ししたらこっそり教えて上げましょう。


 もっともガラディーン・ベステラティン辺境伯のような魔導士もすでにいるから、薄々気付いてるかもしれないわね。

 この時代基準の魔導士ではあるけれど、魔導士の名は伊達では無いわ。


 現時点でプラッツ君の方が基礎能力は遙かに上なんですけれどね。

 ただ、攻撃呪文なんかは、まだ最小限しか教えていないので、こと戦闘に関してはあんがいどっこいの実力かも知れないわね。

 防御能力に差がありすぎるけれど。


 それにしてもガラディーン辺境伯が放った炎槍ファイアージャベリンには驚いたわ。複合詠唱とはいえ、魔力盾マジック・シールドを1枚抜いたんですもの。

 恐らく今の時代では、相当なレベルの魔導士なのでしょうね。


 ともあれ、皆が必死に勉強するのは良い事よね。

 まだ授業で習ってない場所をひたすらに尋ねてくる姿勢は、きっとちゃんと予習をしてるからこそなんでしょうね。

 外から来る人はみんな真面目よね。


 プラッツ君とアイーシャさんが背中から炎を上げながら必死でノートと格闘しているわ。


 全然関係ないのだけれど、教科書は全部貸出で、返却が義務なの。

 ぼろぼろになるまで、この学園で受け継がれていくのよ。


 ……アイーシャさんだけは、教科書に直接書き込んでいるけれどね。


 それより、テスト問題作らないと。とほほ。


 ◆


「どうじゃ! 見るのじゃ! 無事合格なのじゃ!」


 三日間に及ぶテスト期間が過ぎて、返ってきた答案用紙を受け取った途端、プラッツ君に答案用紙を突きつけるアイーシャさん。

 うんうん。頑張ったわよ。


 955点と記載された答案用紙を鼻高々に掲げるアイーシャさん。クラスメイトたちがざわめいたわ。

 それもそのはず。クラスで950点を超えられたのは彼女だけだったのよ。

 てっきり貴族のわがまま娘なので、お勉強の方は疎かだと思っていたのだけれど、違ったわ。

 偏見はいけないわね。


「う……マジかよ……」

「あははははははははは! このクラスでアイーシャだけが進級じゃ! ぬふふ。プラッツの答案も見せてみるのじゃ」


 嬉しそうにプラッツ君から用紙を奪い取ると、眉を歪めたわ。


「のじゃ?」


 そこに記載されていた点数は985点よ。

 うん。プラッツ君には1000点取って欲しかったわ。


「くそ……引っかけ問題とかずりぃよ……」


 プラッツ君はちょっと意地悪な問題になると、すぐに引っかかる傾向があるわよねぇ。


「のじゃ!? この点数でどうしてその顔なのじゃ!?」 

「当たり前だろ? 俺は先生なんだぞ。満点とらなきゃ……それともう一つ」

「なんじゃ?」

「お前とクラスメイトになるのかよって……」

「……のじゃーーー!?」

「中等部はまだ1クラスなんだよ。くっそ……」

「のじゃ……のじゃ……」

「くそ……くそ……」


 息ピッタリね。

 もう、二人とも付き合っちゃえばいいのに。


「不憫な……」


 なぜかブルーがプラッツ君に同情していたわ。


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