第七十三話【おきらく、平和な学園生活】


「いい加減に中等部へ行かせるのじゃああああ! 火炎弾ファイアーボールなのじゃぁああ!!!!」


 教室の窓ガラスがカッと輝いたかと思うと、閃光が外に走ったわ。

 爆音と炎が続くけれど……。


「どわあああ! またかこの暴走娘めぇ!! 操炎マニピュレイトファイアー!! 造水クリエイトウォーター!!」


 すぐにプラッツ君の魔法が続くわ。

 それにしてもあのクラスは、防御魔法が上手くなったわよねぇ。

 最初の頃は、アイーシャさんの暴走を察知したプラッツ君が、慌ててクラスメイト全員を包むように、魔力壁マジック・バリアーを展開していたのだけれど、授業が進むにつれ、アイーシャさんの詠唱速度がどんどん速くなっていって、追いつかなくなると、生徒全員が、自分の身を守るだけの防御魔法を発動させるようになったの。


 おかげで安全性は、むしろ前より高くなっているのだけれど、その分教室へダメージが来るのよねぇ。


「……また派手にやったわねぇ」

「の! のじゃ! これはプラッツが悪いのじゃ! アイーシャはもうこんなに上達しているのに、まだまだお子様じゃと……」

「そういう意味じゃねぇよ! 年齢の話しただけだろぅ!」

「うるさいうるさいのじゃ!」

「はいはい。取りあえずみんな、隣の教室に移動してね。すぐに業者さんが来るから」


 ブルーはにこやかな笑みを二人に向けているけれど、背中には「ゴゴゴゴゴゴゴゴ……」ってオノマトペが浮いているわね。

 ひいいと二人は震え上がっているけれど、わかっているのならやらなければいいのに……。


「うーん二人とも仲が悪いわねぇ」

「当たり前なのじゃ!」

「生徒に好き嫌いとかしないようにしてるぞ」

「そういう所が生意気なのじゃぁああ!」

「なんでお前は何にでも突っかかってくんだよ!」

「うーん。実力と年齢的に、プラッツ君とか、ベステラティン家に婿入りしたら良いんじゃないかなーとか思ったんだけど。きっと優秀な魔法士……いえ、外の基準では充分魔導士だから、喉から手が出るほど欲しいんじゃないかしら?」

「「お断り「だ!」「なのじゃ!」」」


 器用にハモル二人。やっぱりお似合いじゃ無いのかしら?


「くっそぅ……眼中にすらねぇのかよ……」


 妙に凹んでいるプラッツ君。なんの話かしら??


「二人への罰はあとで考えるとして……実際どうなの? プラッツ君」

「どうってのは?」

「アイーシャさんは中等部の実力はあるのかしら?」

「単純に魔法の実力なら軽くあるな」

「ほれみるのじゃ! プラッツは意地悪で中等部に上げないのじゃ!」

「えっとね、アイーシャさん。それは私が初等部のカリキュラムを決めて、プラッツ君にはその通りに教えるように始動しているからよ」

「のじゃ?」

「この学園外で魔法を学んでいたのならわかると思うのだけれど、この国の魔法の形態は色々と特殊ですからね」

「それは間違い無いのじゃ。そもそも貴族以外が魔術……魔法に触れる事自体が滅多に無いのじゃ」

「まぁその貴族制も、この国には無いから、併合後はどうなるかわからないんだけれどね」

「のじゃ!?」

「今はティグレさんが法律を含めて調整中よ」

「ティグレ殿というのは、この間の虎の将軍のじゃ?」

「将軍じゃ無いわよ。軍師よ」

「のじゃ!? のじゃ!? あの脳筋が軍師のじゃ!?」

「ええ。正直ティグレさんがいなかったら、この国の政治は回んないわよ。そうそう。軍師っていうのは別に軍事の責任者という訳じゃ無くて、あらゆる国政に意見出来る役職よ?」

「そんなのはわかっておるのじゃ! アイーシャはベステラティンなのじゃ!」

「余計な補足だったわね。ごめんなさいね」

「あ、謝る事はないのじゃ。アイーシャこそ、つい興奮したのじゃ」

「熱心なのは良いことよ」


 微妙にアイーシャさんの視線がブルーの方に向いている気がするけれど、気のせいよね。


「他の生徒はどう?」

「そうだな。熱心な奴が多いのは確かだぜ。ほとんどの奴は配布した教科書を何度も読み込んでるしな」

「それは偉いわね」


 小学校じゃないのだから、当たり前と言えば当たり前なのかも知れないわね。

 特に今来てる生徒さんは、各地から期待されて送られてきた貴族かそれに準ずる身分の人が多いですし。


 そういえば、最初に教科書を配布したときの反応は忘れられないわ。

 全員が、本来秘匿するはずの術式を、わかりやすくゼロから図解入りで懇切丁寧に説明した、私の力作よ!


 ……。

 でも、なぜか可愛いと思って描き添えたマスコットが、全て描き直されてたのよね……。解せないわ。

 もっとも、最近ちまたで流行りだした「漫画」という形式のサーガを描いている、一流の漫画家さんが描いてくれたので、満足しているわ!


 ちなみに、図書館でも貸出率が凄いのよ。

 まだ、虎の子の印刷までして、部数を増やしているのだけれど、全然追いついていないわ。


 ちなみに、印刷方法は、原画を魔法で鉄板に転写して、それにインクを乗せて、1枚1枚丁寧に職人さんが紙に摺っていくのよ。

 今はその魔法をオレンジ、ラナンキュラス、ミカンの三人しか使えないから、希望者にはぜひ印刷の道へ進んで欲しいわ。


 本当は学術書を先に印刷に回したいのですけれど、民衆が求めているからしょうが無いわね。

 それに学術書は、生徒さんたちが写本でちょうどいい小銭稼ぎになっているようだから、問題無いわね。


「そうね……じゃあ来週テストをしてみましょうか」

「のじゃ?」

「そのテストで1000点満点で950点以上取れたら、中等部に進級を認めましょう」

「ミレーヌいいのか?」

「まだ学園自体、教育方針が試行錯誤だもの」


 それに、これが原因で毎回教室を壊されても困っちゃうものね。

 受かっても落ちても少しは落ち着くでしょう。


「いや、そこじゃねーよ。その問題ってミレーヌが作るんだろう?」

「………………あ゛」

「それは大変ですね。今すぐ製作に入った方が良いでしょう。もちろん私が一緒に二人っきりでお手伝いしますから」

「ううう……ありがとうブルー」


 そりゃそうよね。プラッツ君には無理だったわ……。


「あ、そうそう。二人とも、葉っぱでトイレ掃除ね」

「のじゃーーーーーーー!?」


 墓穴を掘っちゃったわ……くすん。


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