第七十五話【おきらく、テルマエロマン】


「ブルー。だいぶ町も発展してきたわね」

「ええ。ミレーヌ様の努力の結果です」


 ニコニコと嬉しそうに私の後に付いてくる、メイド人形のブルー。


「でも、一つ気になることがあるわね」

「なんでしょう? もしミレーヌ様のお気に喰わない物があるのならば、このブルー、身命を賭して滅する覚悟が……」

「ブルーは時々突っ走るわね」

「そ、それは……私のミレーヌ様のためなら……」

「あんまり物騒なのはダメよ? 気になるのは村の人たちの服装の事よ」

「服装ですか? すでに都の住民たちにもひけを取らない服装になっていると思いますが?」

「うーん。服装っていうか、汚れ方ね」

「汚れ、ですか?」

「うん。みんなちゃんとお風呂とか入ってるのかなって」

「なるほど。確かに少し汚れが目立つようですね」

「昔はこまめに水浴びはしていたようだけれど、今は町中に川とか無いですものね」

「全て上水道として整備されましたからね」


 ミレーヌ王城とその城下町になっている首都は、上下水道完備よ。

 当然トイレも全て水洗で、下流に作られた下水処理施設に流れるようになっているわ。

 オレンジ特製の浄化装置と、浄化用の薬草を混ぜることで、無害にしてから、遠くの大河に流しているの。


「うーん。そうね公衆浴場を作ったらどうかしら?」

「良いアイディアだと思いますが、お金を払ってまでお風呂に入るでしょうか?」

「それはそうね……公共事業として、無料開放できないかしら?」

「ティグレ様と予算の協議を行い、問題が無いようなら着手いたします」

「お願いね」


 なんて会話をしたのがひと月前だったかしら?

 今日はその公衆浴場テルマエのお披露目よ。


「なぁミレーヌ。ただの風呂にしてはデカくないか?」

「風呂など……貴族でもない庶民には贅沢なのじゃ」

「プラッツ君、今の首都の人口を考えてね? ここは一番大きなお風呂テルマエになるけれど、小さな物も沢山作る予定よ」

「そうか……どうもまだ村だった頃の感覚が抜けないなぁ」

「それはしょうがないわよ。でもそろそろ慣れましょうね」

「ああ」

「アイーシャさん。衛生を保つのは国力を保つことに繋がるわ」

「のじゃ?」

「不衛生な人や物は、病気を生むし、何より人から活力を奪うわ。楽しい人生こそが、生産力や芸術性を高めて、国力を増すのよ」

「そうなのか……」

「それに関しては数字でも実証出来るぜ。お前たちには詳細は教えられんが、ミレーヌ神聖王国の国民一人当たりの生産能力は、他国のざっと3倍を超える」


 ティグレさんが答えてくれたわ。

 流石、数字の鬼ね。

 最近私が計算ミスすると、すぐに指摘されるのよね……ぐすん。


「この公共浴場が一般化すれば、さらなる国力を生むことになるかもしれんな」

「私としては芸術がもっと生まれて欲しいわぁ……」

「それなりに効果はあるだろ」

「だと良いわねぇ。まぁいいわ。みんな、折角だから入っていきましょう」


 ◆


「広いわねぇ」


 お風呂の中には様々な彫刻が飾られて、いくつものお風呂が用意されていたわ。

 地下のボイラー室の熱気を利用した床暖房や、サウナもあるわよ。

 今日は折角だから、ブルーだけでなく、レッドとグリーンとオレンジとダーク。それにシノブも呼んだわ。


「シノブ、最近ずっとティグレさんに付いててもらって悪いわね」

「問題ないでござる」


 ティグレさんが求める情報が多すぎて、偵察密偵型のシノブがほとんどつきっきりなのよね。

 ……シノブには悪いけれど、いっそ二人が仲良くなってくれないかしら?

 いえ、物件としては優良だから、悪くないわよね?


「はぁ~天国……」

「レッド、お風呂でお酒とは感心しませんよ」

「ブルーは硬いなぁ。お前も飲めよ」

「遠慮しておきます」


 レッドは早速飲んでるようね。

 ……それにしてもあの胸は反則よ。浮いてるわ。


「ひ……広いのじゃ」

「気に入ってくれたかしら?」

「うむ。しかしこれは維持費がとんでもないのではないじゃろうか?」

「国民サービスの一環よ」


 今はまだ、私たちの貸し切りだけれど、夕方から、一般開放されるわ。


「お風呂嬉しいですぅ~」

「グリーンはいつも畑仕事だものね」

「あとでエメラルドとヒスイも連れてきます~」

「それがいいわ」


 今日は量産型のメイド人形は連れてこなかったですからね。

 それにしても……グリーンも浮いてるわ。羨ましくなんてないんですからね!


「……至福」


 顔を半分までぶくぶくと沈めて、自分の世界に入っているのはダークね。

 彼女は最近活躍の場が減ってきて、暇な時間が増えたようだから、入り浸るかもしれないわ。

 流石に首都の周辺では、狩猟にも限度があるものね。

 最近はもっぱら冒険者ギルドの応援要請で、ダンジョン探索を手伝っているようよ。


「ぬう……なんなのじゃあの胸は……」


 お湯に浸かりながら、アイーシャさんがガン見しているのはレッドとグリーンだったわ。

 案外アイーシャさんと気が合いそうな気がした瞬間だったわ。


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