第七十話【おきらく、学園はじめました】


「……などの理由から、この学園では今説明した基本となる、4つの生活魔法を覚えた時点で魔法士見習いとする」


 プラッツ君が黒板に4つの呪文を書き出しながら、30名ほどの生徒に授業しているわ。

 今私は、小鳥を一時的な使い魔として、窓から授業風景を覗いているの。

 アイーシャさんの初授業なので、気になっちゃって。


「おいプラッツ。ちょっと待つのじゃ!」

「先生と呼ぶように。アイーシャ」


 すました顔で返答するプラッツ君。アイーシャさんはむっとしつつも、言葉を続けたわ。

 流石に昨日の今日で喧嘩しないわよね?


「プラッツ先生どの。それは間違っているのじゃ」

「へえ? どこが間違ってるか説明してくれるか?」

「うむ。その4つの魔法。着火イグニッション洗浄ウォッシュ造水クリエイトウォーター軽・治癒マイナー・ヒールとなっておるのじゃが、治癒魔術が混じっておるのじゃ」

「良い指摘だな。他の新入生も、同じ疑問を持っていると思う」


 アイーシャさんと一緒に入学してきた学園生たちが頷いたわ。

 彼らはすでにある程度の魔法を使える人たちですからね。


「けど、アイーシャは知ってるだろ?」

「のじゃ?」

「昨日、治癒魔法で治してやっただろう」

「……のじゃ!」

「思い出したか? 攻撃魔法も、治癒魔法も使えるんだよ。今世間で基礎となっている魔術と呼ばれている魔法の基礎は、攻撃系と治癒系で、別物の基礎理論が使われていている事と、同時に使えないと教わってきたから、思い込みも大きいんだな」


 教室がざわついたわ。


「これから教える魔法の基礎術式は汎用性が高く、魔力効率も高い。だからどっちも使えるようになるんだよ」

「あの、先生。それって本当なんですか? 地元の師匠には無理だって教わったんですが」

「あー、見せた方が早いな。着火イグニッション


 プラッツ君の指先に、ロウソクを思わせる炎がゆらりと浮いたわ。

 でも、生徒たちが驚いたのはそこにじゃないのよ。


「みっ! 見たか!?」

「ああ! 魔術式を可視展開したぞ!?」

「嘘だろ!? 俺より年下なんだぞ!?」

「なんだあの複雑な魔術式は!」

「馬鹿な……私の30年はいったい……」

「納得いかんのじゃ……のじゃ……」


 プラッツ君も、最近ようやく術式の単純・・なものなら可視展開できるようになったわ。


「もう一つ。いてっ」


 今度はナイフと取り出して、自分の指先に突き刺したわ。あいたたたた!

 じわりと血が滲み出したけど……本当に男の子は無茶するわよね。


軽・治癒マイナー・ヒール


 血をハンカチで拭うと、傷は綺麗に塞がっていたわ。


「本当に治癒魔術を……」

「馬鹿、この学園では魔法だろ」

「そうだった。区別する意味が良くわからないんだけどな」

「魔法は学べば誰でも使えるレベルの物だって、さっき言ってただろ」

「俺たちも、治癒魔法を使えるようになるのか?」

「一瞬だったからよくわからんが、確かにベースの術式は同じだったような」

「私の30年……30年……」

「納得いかんのじゃ……のじゃ……」


 外から来た魔法士さんたちは、大体驚くのよね。


「安心しろ、この4点セットは、小学生が卒業するまでに覚えられる、基礎の基礎だ。むしろこれを覚えてもらえないと、授業をすすめられないからな」

「先生。小学生ってたしか20歳にも満たないと聞きましたが?」

「12歳前後で卒業だな」

「嘘ですよね?」

「いや、本当だよ。まだ6年間フルで通ってる奴はいないから、全員って訳にはいかないが、六年生のほとんどは使えるようになってるぞ」


 小学校に通う子供たちは、魔法に対して先入観が無いから、読み書きと算術を覚えたら、素直に覚えられるのよね。

 逆にこの学園に来る人の方が、苦労することが多いわ。


「この国の若者は……全員この魔法を使えるようになるって事か?」

「おいおいおい……冗談じゃないぞ」

「もし戦争になったら、圧勝じゃないか」

「そうか。だからベルガンガ帝国とガルドラゴン王国が……」

「やべぇ……この国やべぇ……」

「私の30年……30年……」

「納得いかんのじゃ……のじゃ……」


 ぱんぱんぱんと、プラッツ君が手を叩いて、生徒を静かにさせたわ。


「この学園の状況はわかってくれたか? じゃあ早速、基礎術式からやるぞ」


 私は使い魔を解除して、小鳥を開放すると、我に返った小鳥が大空に戻っていったわ。ありがとうね。


「しかしミレーヌ様、よろしかったのですか?」

「何の話?」

「いえ、他国の者に魔法を教えてしまって」

「それは大丈夫よ。実はあの術式にはちょっとした仕掛けがあるのよ」

「仕掛け、ですか?」

「ええ。攻撃魔法に関してだけ、魔力消費をこの世界基準になるようにしてあるのよ」

「ああ、なるほど。さすが私のミレーヌ様です」

「それに魔術式はまた別だからね。そっちは教える予定はないわ」

「理解しました」


 ちなみに、プラッツ君はちゃんと効率の良い術式も学んでいるわよ。

 こうして、後に世界最高峰と呼ばれる様になる魔術学園が始動したわ。


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