第六十九話【おきらく、ハリケーン爆発】


「おい! お前はこっちだよ!」


 学園の廊下に響いた声はプラッツ君ね。

 学園長室で、中等部の授業準備をしていたときだったわ。


「プラッツ様は相変わらず騒がしいですね」


 ブルーが辛辣な感想をこぼしたわ。


「何かあったのかしら?」

「見てきます」

「一緒に行くわ」

「わかりました」


 廊下に出ると、金糸と銀糸の豪華なドレスを身に纏ったロリっ娘と、プラッツ君が対峙していたわ。

 ふくれっ面で仁王立ちしているのはアイーシャさんよ。


「なんじゃ庶民! わらわを誰だと思っておるのじゃ! わらわはガラディーン・ベステラティン辺境伯の娘なのじゃ!」

「身分なんて知らねーよ。それよりお前、その名札。初等部だろ? 今日から新しい奴が来るってミレーヌから聞いてるぞ」

「おっ! おぬし! 女王陛下をよっ! 呼び捨てに!?」

「ん? ああ、ミレーヌとは女王になる前から知ってるから……」

「そ……そうなんか……」


 私は学園長室の扉を少し開けて、二人の様子を伺うことにしたわ。

 自分の話をされているところに出て行くのも、恥ずかしいしね。


「まあそれは良いのじゃ。それより初等部とはなんじゃ?」

「この学園は、初等部、中等部、高等部に別れてるんだよ。初等部は小学校と中学校で習う魔法レベルを習う。中等部、高等部とレベルが上がっていくんだよ」

「のじゃ?」

「小学校と中学校は読み書きや算術。他にも幅広く学問を学ぶ所で、ミレーヌ神聖王国の国民は義務教育になってるんだけど、年齢の問題もあるからな。この学園と被る事も多いんだよ」

「のじゃ??」

「あー。まぁ外から魔法を習いに来た奴は、みんなこの学園に入園するんだ。その辺を詳しく知りたかったら図書館の資料を読んでくれよ」

「図書館の利用許可なんぞ国からもらっておらんのじゃ」

「許可?」

「普通いるじゃろ?」

「いや? 誰でも自由に利用出来るぞ?」

「のじゃ!? 誰でも!?」

「ああ。……普通じゃないのか?」

「普通なわけ無いのじゃ! 本は貴重品なのじゃ!」

「ああ、そういえば授業でそんな話を聞いたなぁ。ここじゃあ普通なんで忘れてたぜ。そうだ、たしか外じゃ紙も貴重なんだっけ」

「当たり前なのじゃ」

「この国じゃ沢山作ってるんだよ。輸出してるはずだぞ」

「そういえば、父上がそんな事を言っていたような気がするのじゃ……」

「学園生の大半は、写本で滞在費を稼いでるぜ。あんたもやりたいなら、仕事はいくらでもあるぞ」

「い、いらんのじゃ」

「そうか、話が逸れたな。とにかくお前は初等部。そして俺はその初等部の教師だよ」

「のじゃ!? 庶民で子供の貴様が教師のじゃ!?」

「いや、お前よりは年上だろ」

「わらわは子供じゃないのじゃ!」

「だったら俺も子供じゃ無いだろ」

「ええい! うるさい! それともおぬしは貴族か何かなんか!?」

「お前たしか、辺境伯の娘だったよな。だったら俺はお前から見たらただの田舎もんだよ。一応元村長の孫っていう肩書きもないわけじゃないけどよ」

「ただの庶民ではないか!」

「そうだな」

「きっ! 貴族でも無い庶民が魔術の教師じゃとぉ!? 納得いかないのじゃ!!」

「そう言われてもな。人手が全然足りなくて、半分無理矢理やらされてるんだよ」

「無理矢理!? 名誉ある魔術教師を無理矢理じゃとぉ!?」

「俺としてはミレーヌにもっと教わりたいんだけどな」


 その割にはサボり癖があるじゃないの。プラッツ君。


「な……納得いかないのじゃ! 勝負なのじゃ!」

「は?」

「おぬしに勝てば初等部なぞ卒業なのじゃ!」

「どうしてそうなる!?」

「うるさいのじゃ! 喰らうのじゃ! 極大魔術! 火炎弾ファイアーボールなのじゃぁあああ!」

「ごわああああああ!?」


 ちょっ!?

 私が何かを考えるより先に、ブルーが私を部屋に引き込んだわ。

 爆発音と同時に、廊下に熱風がよぎったわ。


「大丈夫ですか!? ミレーヌ様!?」

「た、助かったわ」

「少々お待ちを。すぐにあの娘を処理・・してきます」

「待って待って待って! 大丈夫だから!」

「しかしっ」

「とりあえず落ち着いて……」


 私はゆっくりと立ち上がろうとしたのだけれど、予想外の声にビクリとしてしまったわ。


「てめぇ! 何しやがる!? 下手したら死ぬぞ!?」

「ちゃんと手加減はしたのじゃ!」

「アホか!? 廊下が滅茶苦茶じゃねぇか!」

「うるさいのじゃ! このくらい弁償してやるのじゃ! それよりわらわの実力を理解したのじゃ!?」

「ああ……よーくわかった……お仕置きが必要だってな!」


 ちょっ!?

 プラッツ君!?


「喰らえ! 魔力矢マジック・アロー(弱)!!!」

「ぎゃぴーーー!?」


 プラッツ君が最小威力の魔力矢で、アイーシャさんを打ちのめしたわ。


「正義は勝つ!!」

「勝ってないわよ!」

「ミレーヌ!?」

「プラッツ君……」

「こ……これは……こいつが悪くて……」

「プラッツ君。アイーシャさんを治療したら、一緒に学園室に出頭ね」

「……はい」


 私は極力笑顔を維持していたけれど、たぶん眉間に血管が浮いていたかも知れないわね。

 横に立つブルーは、背中から殺意の波動を隠そうともせずに放出しながら、プラッツ君を睨んでいたわ。

 プラッツ君の顔から、一瞬で血の気が引いていくのを見たわ。

 うん。今のブルーに逆らっちゃだめよ?


 ◆


「お……おいミレーヌ」

「ぐ……く……屈辱なのじゃ……」


 2人が妙なポーズで立っているのは、中央広場のど真ん中よ。

 2人を何十人もの芸術家が囲んでいるわ。全員、キャンバスを広げて、熱心に二人を凝視しているわよ。


「ううう……なんでこんな事に……」

「屈辱なのじゃ……屈辱なのじゃ……」


 二人に与えた罰は、デッサンモデルよ。

 プラッツ君は葉っぱぱんつ。

 アイーシャさんは葉っぱビキニで、ポージングしているわ。


「いやあ、あの少女の屈辱に塗れた表情。創作意欲がわきますなぁ」

「クロッキーしておいて、あとで彫刻にしましょうかね」

「ふむふむ。平坦な体つきも悪くない」


 うん。喧嘩両成敗よね。


「わ……わたしゅ・・はいつもあんな恥ずかしい姿を晒していたのか……」


 なぜか群衆のなかで、エルフ騎士さんが愕然としていたわ。

 誤爆しちゃったわね……ごめんなさい、リンファさん……。


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